
震災当時の運行対応などを説明するJR貨物の安田晴彦氏=東京都品川区【拡大】
北海道便の立て直しで、関東あるいは中京地区から日本海縦貫線につなぐめどはついていた。だが、それはあくまでコンテナ貨物の話。線路があればどんな列車も通れると考えるのは素人の発想だ。一両あたり40トン以上の石油を積めるタンク貨車を多数連結して走らせるとなると、線路や橋梁(きょうりょう)が耐えられるかなど「入線確認」という詳細なシミュレーションが必要だ。JR東日本などに試算を依頼しなければならず、通常は回答に何カ月もかかる。
◆独特の技術、距離…
運転士の確保も課題だ。JR貨物のある運転士は「石油はタンク内で揺れるため、ブレーキをかけても思うように減速できないこともあり、安全運行には独特の技術が必要になる」と説明する。距離も問題だ。通常の石油列車の走行距離は片道せいぜい200キロ。仮に製油所が集中する東京湾沿岸から盛岡まで運ぶと輸送距離は1000キロを超える。クリアすべきハードルが多すぎた。
「そうか、石油か…」。そうつぶやく安田さんの周りに社員が集まる。「タンクローリーはだめなんですか」。そんな問いに誰も答えを見いだせない。
東北地方にあった約700台のタンクローリーのうち100台ほどが津波被害で使用不能。運転手も被災し、現地の石油輸送インフラはほぼ停止状態だった。爆発したJXエネルギーの仙台製油所はじめ東日本の多くの製油所は停止。そうした状況を受け、JR貨物の経営陣に政府筋から石油輸送への強い期待がかけられていた。