【木下隆之のクルマ三昧】量産モデルより先にレース仕様…トヨタ異例の開発手法に業界騒然 “新型スープラ”の持つ深い意味 (2/3ページ)

 公道を走る量産モデルが発表されたのち、ある一定の開発期間を経てからレーシング仕様が後追いする。それが一般的な新モデルデビューのスタイルだ。

 あるいは、自動車メーカーは自社がラインナップするモデルの中からレースで都合がいいモデルを選択し、勝てるように改造して戦う。それがこれまでの常識だった。

 どちらにせよ、量産市販車デビューから早くても半年、遅ければ数年後にレーシングマシンが誕生する。これがこれまでの開発スケジュールなのである。

「GRスープラ・レーシング・コンセプト」のコックピット

「GRスープラ・レーシング・コンセプト」のコックピット

 開発責任者の興味深いことば

 ところが今回は違った。まだ市販車の姿は公表されないのに、先行してレーシングマシンが発表されたのだ。

 実はこれが深い意味を持つ。その件を開発責任者の多田哲哉氏に聞くと、興味深い回答が得られた。

「あとからレース仕様に改造すると『市販モデルがこうだったら楽なのに…』ということが発生します。だったら、あらかじめ細工をしておこうということです」

開発責任者の多田哲哉氏

開発責任者の多田哲哉氏

 つまりこうだ。レースの車両規則には、厳格に改造範囲が定められている。自由勝手に改造することは許されない。市販モデルの面影を、ある程度残さなければならない。それが足枷になることがある。

 例えば、「エンジンルームが狭いから大きなエンジンが積めない」「フロントグリルが小さいので、水温が上がってしまう」「車幅が足りないからコーナリング性能が悪い」といった不具合が生じる。だったら、市販状態からレース仕様を頭に入れ、エンジンルームを広くしたりグリルを拡大させたり、安定性の高いボディにしておきさえすれば、レース仕様への改造が容易になるというわけだ。

まもなく産声を上げる量産スープラ