公道を走る量産モデルが発表されたのち、ある一定の開発期間を経てからレーシング仕様が後追いする。それが一般的な新モデルデビューのスタイルだ。
あるいは、自動車メーカーは自社がラインナップするモデルの中からレースで都合がいいモデルを選択し、勝てるように改造して戦う。それがこれまでの常識だった。
どちらにせよ、量産市販車デビューから早くても半年、遅ければ数年後にレーシングマシンが誕生する。これがこれまでの開発スケジュールなのである。
開発責任者の興味深いことば
ところが今回は違った。まだ市販車の姿は公表されないのに、先行してレーシングマシンが発表されたのだ。
実はこれが深い意味を持つ。その件を開発責任者の多田哲哉氏に聞くと、興味深い回答が得られた。
「あとからレース仕様に改造すると『市販モデルがこうだったら楽なのに…』ということが発生します。だったら、あらかじめ細工をしておこうということです」
つまりこうだ。レースの車両規則には、厳格に改造範囲が定められている。自由勝手に改造することは許されない。市販モデルの面影を、ある程度残さなければならない。それが足枷になることがある。
例えば、「エンジンルームが狭いから大きなエンジンが積めない」「フロントグリルが小さいので、水温が上がってしまう」「車幅が足りないからコーナリング性能が悪い」といった不具合が生じる。だったら、市販状態からレース仕様を頭に入れ、エンジンルームを広くしたりグリルを拡大させたり、安定性の高いボディにしておきさえすれば、レース仕様への改造が容易になるというわけだ。