「シカ踏切」が絶大な効果、逆転の発想が生んだ近鉄の接触事故対策とは (3/4ページ)


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  • シカが線路を横断した状況を記した「鹿カルテ」(近鉄提供)
  • シカが嫌がる超音波を発するU-SONIC=奈良県宇陀市(近鉄大阪線・榛原-室生口大野間)
  • シカが線路を横断する様子(近鉄提供)
  • 「シカ踏切」の仕組み。線路沿いに柵を巡らせ、柵の隙間は必要に応じ超音波でシカの侵入を防ぐ(近鉄提供)

 28年5月に伊勢志摩サミットを控えていたこともあり、早急な対策が求められた。そんな中、板金加工を手がける「モハラテクニカ」(群馬県高崎市)という会社が開発した鳥獣害対策用の超音波発信装置「U-SONIC」の存在を知り、導入を検討。名古屋輸送統括部施設部電気課の匹田雄史さん(49)をリーダーとする対策チームが27年10月から、シカの接触事故が多発していた津市の東青山駅で現地調査を行い、監視カメラでシカの行動を観察し、移動経路や滞在時間など詳細なデータを記した「鹿カルテ」を作成した。

グッドデザイン賞も

 では、装置はどこに設置すればいいか。近鉄の総営業距離は500キロを超え、私鉄で最長。山間部も多く、広範囲に設置するのは現実的でなかった。一方で、シカには線路を挟んだ両側にある生息域を行き来したり、鉄分補給のためにレールをなめたりする習性があることも分かった。

 「だったら、シカの通り道をふさぐのではなく、安全な時間帯だけ渡れるようにできないか。そう考えたのがシカ踏切の始まりだった」。匹田さんはそう話す。

 動態調査の過程では、衝撃的な映像も目にした。シカの親子が線路を横断中、3頭の子ジカのうち最後尾にいた1頭が渡りきれず、電車にはねられてしまったのだ。母ジカは約40分間その場を離れず、事故に遭ったわが子を悲しげに見つめ続けていた。「本当に悲しくなった。何とかしなくては…」。匹田さんは強く思ったという。

「人間が後から割り込んできた」