マイクロプラスチックによる環境汚染が深刻化する中、家庭用炭酸水製造装置で急成長するソーダストリーム(イスラエル)は、プラスチックごみとの闘いを企業文化として掲げる。健康な暮らしを求める消費者に対し、「清涼飲料水を飲む度に増えるプラスチックからの解放」を訴求。世界規模のアクションを始めている。
子供たちが自発的に参加
昨年、中米カリブ海がプラスチックごみであふれた光景がマスメディアなどで世界中に伝えられた。ダニエル・バーンバウム最高経営責任者(CEO)は「日常生活の食習慣におけるプラスチックごみからの解放に製品を通じて取り組むソーダストリームにとって、このことは見過ごせなかった」と語る。
すぐにプラスチックごみを回収して美しい海を取り戻す行動を始めた。中米ホンジュラスのカリブ海側に位置し、世界で2番目に大きなサンゴ礁で知られるロアタン島。ここに、プラスチックごみで覆われた海域があり、同社はこの年の10月から、「プラスチックファイターズ」と呼ぶキャンペーンを始めた。
「100万ドル(約1億1200万円)規模の投資を既に自社で行った」とバーンバウム氏が語るこの取り組みは、主に2つある。
一つは地域社会に対するごみ啓発とリサイクルの習慣づくり、もう一つは海上のプラスチックごみを一気に回収する革新的な手段の開発である。
美しい海を求めて主に北米からの移民が多いロアタン島では、投棄されたごみを有志が回収する「ベイアイランズ海岸清掃活動」というコミュニティー運動がある。グローバル企業の同社がこの美化活動に協力したことで、「世界から注目されている」との印象が広がり、ホンジュラス政府を巻き込んだ一大運動となった。
10月上旬の1週間が「全島地域清掃の週」と決められ、人口5万人の島に2000人規模の清掃ボランティアが集まった。
特筆すべきは、清掃運動に子供たちが参加した点だ。学校でプラスチックが環境に与える影響を学習したうえで実際に近くの海辺を清掃することで、規則正しいごみ捨てと環境美化の大切さを実感させた。世界から集まった同社社員も参加。外国の大人が率先してごみ拾いをする姿を見て、子供たちは自発的にごみを拾った。
沿岸部向け回収技術開発
一方、同社はプラスチックごみを一気に回収する革新的な技術開発に取り組んだ。
海洋に漂うプラスチックごみの回収装置についての研究開発は世界各地で行われている。しかし、「沿岸部の浅い海で効率的に回収する技術はこれまでなかった」とバーンバウム氏は語る。同社は、本拠地があるイスラエルで解決方法を検討。流出した原油の汚染防止手法を応用し、水面を巻き網のようなフロートで海域を囲い、それをしぼめて回収する技術「ホーリータートル」(聖なる亀)を開発、導入した。
「マイクロプラスチックとの闘いは、ソーダストリームにとっての社会的使命である」(バーンバウム氏)。本気で革新的なこのキャンペーンは、問題解決にコミットする同社ならではの新たなブランディングの姿である。
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≪焦点≫
■新たな飲料習慣で消費者・企業の心をつかむ
社名と同じ名称の家庭用炭酸水製造機を製造・販売するソーダストリーム。ペットボトルのごみを出さずに家庭で炭酸飲料をつくり出すという、新たな飲料習慣が消費者の心をつかんだ。売上高はこの5年間で約45%も成長しており、清涼飲料市場において極めて異例といえる。
成長の背景には、消費者の健康志向とペットボトルごみに対する環境意識の向上、自ら質の高い食生活を行いたいという本物志向、DIY志向といった消費者のクオリティーオブライフへの欲求の高まりに合致したことが挙げられる。
今年8月には、ペプシコーラで知られる米飲料メーカー、ペプシコが、ソーダストリームを約3500億円で買収したと発表した。
ロアタン島での清掃活動にはペプシコの上層部も参加した。言行一致で意識の高い消費者をつかむソーダストリームの活動の最前線に触れ、新たな企業文化をつくりだそうとしている。
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■ソーダストリーム・インターナショナル
【日本法人住所】東京都渋谷区神宮前3-7-5 青山MSビル
【設立】1903年
【従業員数】1950人 (世界全体、2015年現在)
【株式時価総額】32億ドル (18年10月現在)
【事業内容】ソーダメーカーの製造・販売