パレスホテル東京の成功に倣う?
ホテルオークラ東京は移転後の新しい山里を、どうしようとしているのか。
イメージとしてはパレスホテル東京のレストラン街にある、和食「和田倉」をベンチマークしているのではないかと考えられる。同ホテルは、12年5月、老舗ホテル「パレスホテル」を建て替えて新たにオープンしている。
和田倉の入口には「和田倉」の看板しか掲げられていないが、中に入るとすしカウンターには鮨かねさか、天ぷらカウンターには「巽」、鉄板焼には「濠」の看板が出ている。つまり、和田倉の「店内店」が3つあり、鮨かねさかのみが外部からきたテナントとなる。だから、知らない人はパレスホテル東京に行っても鮨かねさかの看板が見つけられず、店の場所がどこにあるのか分からないのだ。
例えば、そういう条件をホテルオークラ東京から突きつけられれば、久兵衛側としては看板を傷つけられたとなるのではないか。だから移転を嫌がった。
新しい山里は、天ぷら専門店から総合和食の直営店としてリニューアルし、従来になかったすしや割烹のカウンターを新たに設置する計画である。すしを外部の業者に任せたとしても、店の外の看板は「山里」としか掲げず、店に入ったらすし屋の看板があるという形態を取ろうとしているのだろう。
久兵衛は別棟のアーケード街に店舗スペースが充当されたが、飲食のメインエリアから追い出されたと受け取ったわけだ。もめているうちに、やむなくホテルオークラ東京の事情を知り、久兵衛から独立した店に依頼せざるを得なくなったのではないか。
過熱する高級ホテル戦争
パレスホテル東京は国内外の富裕層を取り込むことに成功した。平均客室単価は5万円を超えており、国内ホテルとしては“御三家”を上回る額になっている。16年には日系ホテルとしては初めて「フォーブス・トラベルガイド」で5つ星を獲得し、その状態を3年連続で維持している。
また、老朽化した「グランドプリンスホテル赤坂」を建て替え、16年にオープンした「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」(東京都千代田区)は、最低でも1泊6万円からとなっており、強気の価格設定をしている。
つまり、ホテル業界でも近年下克上が起こっており、建て替えを機に実質的な国内最高ブランドの地位も変化してきているのだ。
負かされたホテルオークラ東京は、目と鼻の先にある「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)にある、外資系の「アンダーズ東京」もオープンしているため、その地位をますます脅かされている。
和食を充実させることで、外資にない特徴を出せるため、従来のような久兵衛の看板に頼るような腰が引けた態度でなく、全部直営で責任を持って運営したいのだ。
しかも久兵衛自体が弟子たちの店から下剋上を受けている現状があり、上り調子の新鋭を入居させて勢いをつけたい心情も理解できる。
東京五輪を前に、日本ナンバーワンホテルを決める苛烈な高級ホテル戦争の渦中、久兵衛はあおりを受けて、おいしいかもしれない立地を「一方的に指定され排除された」との理由でみすみす棒に振り、弟子たちの店にも次々と下克上されて落ちぶれ果ててしまうのか。それともアーケード街で頑張って巻き返すのか。裁判と店舗売り上げの行方を見守りたい。