■新工法、装置、システム開発に邁進
無人化施工の確立
「いつか世の中のお為になるような仕事をさせていただきたい」
熊谷組が創業以来掲げてきた精神だ。工事の完遂にとどまらず、さらに安全化、効率化を高めるにはどうすべきか。熊谷組では創業以来一貫して新工法や関連装置、システムの開発に邁進(まいしん)してきた。自然災害の被害規模が拡大傾向にある昨今、同社の研究成果には大きな期待が寄せられている。
土木分野で多くの実績を持つ熊谷組が長年取り組んできたのが無人化施工の技術だ。国内での無人化施工は1960年代から始まり、当初は洪水や土砂崩れの現場に特殊な重機を持ち込み、安全な場所からオペレーターが目視で遠隔操作する形態がとられた。その後、映像を活用した操作、無線通信技術を駆使したシステムへと発展していく。
業界挙げて本格的に導入される契機となったのが、1994年から始まった長崎県雲仙普賢岳噴火に伴う水無川流域の復旧工事だ。建設省(現国土交通省)による試験フィールド制度で、水無川を埋め尽くした大量の土砂を除去する作業にゼネコン6社が参加、多くの建設機械メーカーなどが協力し、さまざまな方式の無人化施工技術が試行された。
熊谷組は同案件を皮切りにその後に発生した北海道有珠山噴火、岩手・宮城内陸地震の荒砥沢治山工事など20件以上の無人化施工を行ってきたという。そのうえで、同社は独自の無人化施工技術を確立していく。
従来のシステムは、用途別にさまざまな仕様の無線が採用されており、稼働までの調整作業が複雑だった。この課題に対し熊谷組では、オペレーターが建機を動かすための操縦用無線、映像用無線、他の情報伝送用無線の各通信仕様をデジタル化し、無線LANを活用して現場で容易に構築できるネットワーク対応型無人化施工システムを開発した。
熊本地震の崩落現場で活躍
同システムが本格採用されたのが2016年4月に発生した熊本地震による大規模土砂崩れの現場復旧だった。山腹から発生した土砂崩落は長さ350メートル、幅140メートルに及び、大量の土砂は阿蘇大橋を押し流した。いつ土砂崩れや落石が発生するかわからない現場。復旧工事を請け負った熊谷組は、多数の重機や運搬車を活用する無人化施工システムを導入。
オペレーターが詰める操作室と無線基地局を光ファイバーケーブルで結びつつ、無線基地局から無線中継車までの数100メートルを25ギガヘルツの無線LAN、遠隔操作式建機までを5ギガヘルツ無線LANを使用することで、超長距離でもタイムラグの少ない遠隔操作が実現したという。この技術の取り組みが評価され、同社の技術者が第7回ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞を受賞している。
同社ではさらに一歩進んだ無人化技術に突き進む。大規模災害の復旧現場では、施工領域が立ち入り禁止となり、容易に測量ができない場合が少なくない。このため、建設機械の各種センサーと全球測位衛星システム(GNSS)の情報を組み合わせて活用する作業位置情報取得システムとCAD(コンピューター支援設計)で作成した3Dモデルを組み合わせて施工管理を行う情報化施工システムを改良。従来の測量に劣らない現場データを取得することで、より確実・安全な無人化システムでの施工・管理を可能にしている。