――混雑は観光地につきものと思い込みがちです
「混雑ばかりではなく、押し寄せる観光客は町並みも変えつつあります。京都の台所といわれる『錦市場』は八百屋や漬物屋さんが軒を連ねる商店街ですが、近年は観光客向けのスイーツ店やドラッグストアなどが増えました。売られる抹茶にしても観光客向けのファンシー抹茶で、チャチなお土産処になりつつあります。市場原理によって店が入れ替わり、錦市場の文化的な価値は下がってきたといえます」
――市場原理はしばしば伝統と相反しますね
「さらに大きな問題は地元住民の生活が成り立たなくなることです。10年ほど前までは町家を宿泊施設やカフェに再生するブームがあり、伝統の町並みを残す原動力になりました。ところが観光客がある一線を越えたらビジネスホテルにした方がもうかるため、町家の破壊ラッシュが起きた」
「京都市内は地価が高騰し住民は土地や家を売って出ていく。昔からある花屋や散髪屋もなくなり、土産店だらけになる。このままいくと住民の町ではなく、観光客のための町になってしまいかねません」
――住民不在の観光促進とは本末転倒ですね
「ぜひ疑ってほしいのは観光客が本当にお金を産んでいるのかということです。海外で『ゼロドルツーリズム』問題が注目されています。例えばタイに来る安売り旅行パックの中国人は、ホテルもレストランもガイドも中国系で、このごろは支払いも中国系電子マネーだったりする。観光客が来たと喜んでもお金の行方はわからないのです」
――観光の経済効果は数ではわからないのですね
「何千人もの客を乗せて来る大型クルーズ船も、ベニスやカリブ海などで問題視されています。宿泊も食事も船内で済ませ、ツアーも関連会社が行ったりする。地元に落ちるお金は多くないが、大勢の船客に対応するトイレやゴミの処理など負担は大きいのです」
「ゼロドルの危険は日本でもあります。岐阜県白川村の白川郷には年間170万人を超える観光客が訪れますが、平均滞在時間は約40分といいます。写真を撮って自動販売機でジュースを買う程度の観光客のための駐車場やトイレの整備、ごみや廃物処理に地元は大変なコストをかけている。費用に見合う収入があるのでしょうか」