業務用の営業経験がある大手ビール首脳は「お金でひっくり返した店は、お金でひっくり返される。店に価値ある提案をしたり、サポートしたりするのが本来の営業」と指摘する。しかし、酒税改正のような重要局面では商戦はおのずと激化し、水面下で巨費が動く。
複数の業態で料飲店を経営する社長は「ビールメーカーの協賛金は、いまや料飲店の収入源になっている。本業では利益がないのにやっているチェーンもあるほど。しかし、メーカーの協賛金が、外食にとって最も大切な自立を妨げている側面はある」と、自省しながら話す。
こうした中、業界首位のアサヒビールが、来年1月分から販売量の公表をやめる。代わりに売上金額を公表していく。「過度のシェア競争を緩和するため」(アサヒ)とするが、情報開示の制限は水面下での“荒れた商戦”を包み隠す要因にもなる。何より、人々のビールへの関心低下を招く。ビール類市場のさらなる縮小が懸念される。
【プロフィル】永井隆
ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。群馬県出身。