そんな姿を見ていましたから、「利他の心」で誰かのためになることをしていれば、まわりまわって自分に返ってくる、人には親切にするものだということを学んだのだと思います。
いまも毎日両親の仏壇に手を合わせ、話しかけている
どんなに大変なことがあっても、絶対に人の悪口を言わない母からは惜しみない愛情を、仕事に厳しい父からは働くとはどういうことなのかを、みっちり仕込んでもらいました。長男の僕ばかりが厳しく怒られるので、もしや実の父親ではないのではと疑うくらいだったのですが、鏡を見れば見るほど僕は父そっくりなのです。
残念なことに、父は僕が27歳のときにがんで亡くなりました。
手術を控えて泊まった旅館で父と一緒に風呂に入ったとき、「そっちを向け。背中を流してやろう」と言われ、父の手を背中に感じながら「あれだけしごかれたのは、僕を一人前にするためだったんだ」としみじみ思いました。
「甘太郎」の成功を喜んでくれた父ですが、「おい、ぶどうやワインも忘れるなよ」と言われたことが、後年ワイナリーを手がけるようになったことにつながっています。
いまも毎日両親の仏壇に手を合わせ、生きている人に話すように話しかけています。「おかげさまで今日も一日終わりました」とお礼を言ったり、「今日は少し間違ったことをしてしまいました」と詫びたり、「教わった通り、こんなことをしましたよ」と報告したり。
そうやって床に就くと、不思議なことにいい発想がぱっと浮かんできたりするのです。ただ、朝になると忘れてしまうので、電気もつけずに急いでメモするようにしています。
齊藤 寛(さいとう・ひろし)
シャトレーゼホールディングス・シャトレーゼ 代表取締役会長
1934年、山梨県生まれ。1954年、20歳のときに焼き菓子店「甘太郎」を創業。5年後、有限会社甘太郎を設立し、代表取締役に就任。1964年に大和アイスを設立しアイスクリーム業界に参入。1967年、10円シュークリームを発売。同年、2社を統合し、株式会社シャトレーゼに社名変更。2008年、代表取締役会長に就任。2010年、シャトレーゼをはじめ、ワイナリー事業、リゾート事業、ゴルフ事業などを統括して株式会社シャトレーゼホールディングスに商号変更し、代表取締役社長に就任。新設分割会社、株式会社シャトレーゼを設立。2018年から代表取締役会長。株式会社シャトレーゼの代表取締役会長も兼任。
(シャトレーゼホールディングス・シャトレーゼ 代表取締役会長 齊藤 寛)(PRESIDENT Online)