Bizプレミアム

街中を自動運転バスが走る…運行開始から1年「駅がない町」に見た地方創生の未来図 (2/3ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 このスピード感は35歳で町議会の議長を務め、14年に38歳で町長となった橋本氏の流儀。一方、ボードリーにとっても橋本氏の申し出は絶好のタイミングだった。佐治氏は「当時はすでにさまざまな自動運転車を使った実証実験を3年間続けており、いつでも定常運転できる状態だった。やりたいと言ってくれる自治体があれば、すぐにプレゼンできるように資料は常にカバンに入っていた」と話す。

 サービスに際してはフランス製の「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」を3台導入。ボードリーが実証実験で試した約20種類の車両の中でソフトやサービス面での完成度が最も高かったという。また、運行管理には全国各地で遊戯施設や幼稚園などの送迎サービスを請け負う「CENEC(セネック)」が参画し、町内で遠隔監視システムを運用している。

 サービスは2つの停留所を往復する約5キロの第1期ルートで開始。その後の停留所の増設や第2期ルートの新設で、現在の停留所の数は16まで増えた。病院や子供の遊び場、バスターミナルなどを結ぶ走行経路は約20キロにおよぶ。今年11月中旬までに延べ約5000人が利用している。

 自動運転バスは手段のひとつ

 ただ、自動運転バスが町の課題をすべて解決するわけではない。町長の橋本氏が強調するのは、「目指しているのは、境町はずっと住み続けられる町だという安心感をもってもらうこと。自動運転バスはその手段のひとつにすぎない」という点だ。

 自動運転バスの運行には5年間で約5.2億円の予算が計上されている。年間でみれば約1億円だ。21年度から国の地方創生推進交付金対象事業となり、事業費の半額の補助を受けている。しかし自動運転バスの利用者からは料金を徴収しておらず、事業単体で採算がとれているわけではない。

 一方、自動運転バスが町に経済効果をもたらしていることは明らかだ。自動運転バスの利用者の中には、町外から「自動運転バスに乗ってみたい」と町を訪れた観光客も多い。ルート上にある「道の駅さかい」では建築家の隈研吾氏がデザインしたレストラン棟が19年にオープンしたこともあり、売り上げ実績は毎年数億円規模で伸びている。

 また、自動運転バスの車検を地元の自動車整備工場で行うことなどで、事業自体が地元に需要を生み出す側面もある。橋本氏は「全国に先駆けて自動運転バスを実用化したことで注目を集めているというPR効果も絶大だ。企業が本社機能を境町に移すという動きもある」と明かす。

 人口減少に歯止めの兆し

 こうした境町の戦略は徐々に実を結び始めている。境町の人口の変化を、短期的には変わりにくい出生数と死亡数の影響を除き、転入と転出の動向にしぼった「社会増減」でみると、16年度以降は増加が目立つようになった。00年度まで2万7000人を超えていた人口は今年11月1日時点で2万3966人まで減ってはいるものの、歯止めがかかる兆しが出ているというわけだ。

 こうした潮目の変化は自動運転バスを含むさまざまな施策で導き出された成果といえる。境町は保育園の料金を周辺自治体より安くするほか、新規移住者に対する毎月最大1万5000円の家賃補助や医療費助成の強化といった施策で子育て世代にアピール。さらに町が主導して新築マンションや戸建て住宅を建設し、月額家賃5万2000円で住むことができるなどの事業で定住促進も図る。

 教育面では英語を強化。すべての町立の小中学校に外国人英語講師を常駐させて英語に触れる機会を増やしている。さらに英検の受験料も町が負担するなどして、「すべての子供が英語を話せる町」に向けた取り組みを行う。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus