人工知能は人類の味方?それとも脅威? いまや「人生ゲーム」マス目にも登場

 
7代目「人生ゲーム」に登場した「人工知能で資産運用」のマス目

 囲碁のコンピューターソフトが最強クラスの棋士に勝ち、短い小説をコンピューターが書いてコンテンストに応募し一次選考を通過してと、人工知能(AI)の進化をめぐるニュースで賑わっている。8年ぶりにリニューアルされたタカラトミーの7代目「人生ゲーム」にも、「人工知能で資産運用」と書かれたマス目が登場した。

 人の能力を上回るような人工知能の出現は、人々の暮らしを豊かにするのか、それとも人類を脅かすのか。肉体をさまざまな機器で補完するウェアラブルの研究を続ける神戸大学大学院工学研究科の塚本昌彦教授は、「ウェアラブルで人工知能を活用しよう」と、人間が主導権を持って人工知能の開発に取り組む必要性を訴える。

 マンガやアニメーションで人気の「攻殻機動隊」に描かれたビジョンを、現代の最先端技術で現実化しようと取り組んだ研究の成果を披露するイベント「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT the AWARD」。その中で、ウェアラブルやロボットなど「攻殻機動隊」と縁が深い研究に携わる人たちが講演する「攻殻ユニバーシティ」も行われた。

 講演者のひとりとして、スマートグラスを装着したおなじみの姿で登場した塚本教授。「ウェアラブルはモバイルの進化形」という持論から、流行しているVRヘッドマウントディスプレイや、「攻殻機動隊」に登場する人間の体を機械で置き換える義体などを、自由に着け外しができるウェアラブルとは違ったものと位置づけた。

 その上で、ウェアラブルから体内に電子的なデバイスを仕込むインプラントを経て義体化が進み、電脳化へと至って現実が仮想空間と融合するような流れを示し、そこに向けてどのようなテクノロジーの進化が起こるかを語った。

 過去に塚本教授は、服に電飾が仕込まれダンスに合わせて輝くようなシステムや、ウェアラブルを使ったゲームが出て来て、子供たちが外で鬼ごっこのようなことをして遊ぶといった“予言”を行った。いずれも現実化に向かって動き出している。外を歩いて楽しむゲームでは、手にスマートフォンを持ち、歩いてポータルをめぐる「Ingress」が人気となり、同じ仕組みを利用した「Pokemon GO」の登場も近い。

 そうした“予言者”としての実績を背景に、新しい“予言”として塚本教授は、冷暖房を服の方で制御するようになって、部屋の冷暖房装置がなくなる可能性、個々人がICタグを体に仕込んだり、超小型の胃カメラを気軽にのみ込んだりできるインプラント時代の到来を指摘。電脳化もそれほど遠くはないことを示唆した。

 マインドアップロードという、人間の記憶や感情などをまるごと電子情報にして移し替えるような技術も、25年後には可能になって、人間は永遠の生命を手に入れると話した。肉体を持った“私”と電子化された“私”との連続性が気にかかるが、これについては、少しずつ電子に移行していくことで気にならなくなるといった持論を聞かせた。

 遠からず起こるだろう技術革新について話していった塚本教授は、最後にシンギュラリティと呼ばれる、人工知能が人類の知性を追い越す現象が起こり、やがて人類に牙をむくといった将来像に関して触れた。

 コンピューターの反乱といったビジョンではなく、「科学技術の発展曲線が特異点となる日」をシンギュラリティと位置づけた塚本教授。「超知能が人類の知能をはるかに追い越すということ。超越するのは人工知能ではなく人類自身という可能性も含めたい」と指摘し、ウェアラブルや、その延長にあるインプラント、ナノマシンを使った知性の向上などを経た人類が、超知能を得てシンギュラリティに至るビジョンを示してみせた。

 ここで強く訴えたのが、人間由来であるということだ。「賢い人工知能を人間の意識の支配下に置く」ことで、人間自身が未来を切り開き、選び取っていく必要性を示した。

 そして「急がないと人工知能が賢くなる。ウェアラブルで人工知能を活用しよう」とも。急速な人工知能の進化に人間の理性や倫理が追いつかず、暴走へと向かわせてしまわないよう、高度な人工知能の力を人間自身が制御し、役立てるような使い方を提案した。

 「人工知能の研究は、日本が主導権を握るべき。そのためにはさまざまな規制は取り払った方が良い」。早くからウェアラブルの可能性に気づき、実践し、人間の制御下で人間の持つさまざまな可能性を拡張するウェアラブルの普及に取り組んできた塚本教授だけに、こうした指摘には重たいものがありそうだ。