「攻殻機動隊」などアニメの世界を現実化するプロジェクト続々
アニメーションの「機動戦士ガンダム」に出てくる巨大ロボットを作り、歩かせようとするプロジェクトをはじめ、アニメやマンガといったバーチャル(仮想)の世界に登場するものを、現実の世界に作り出そうとするプロジェクトが幾つも進んでいる。士郎正宗氏の漫画を原作に、押井守監督や神山健治監督らがアニメ化した「攻殻機動隊」に描かれた、近未来的なテクノロジーを形にしようとするプロジェクトも進行中。さきごろその成果発表が行われ、全身義体のサイボーグたちがネットワーク化された社会で起こる犯罪に挑む物語の世界を、現実にぐっと近づけた。
日本を代表する企業や大学の研究開発者、アニメーションの製作者らが結集して、「攻殻機動隊」の世界を再現しようと取り組んでいる「攻殻機動隊REALIZE PROJECT」。その成果を集めた「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT the AWARD」が2月に東京都内で開かれ、「攻殻×コンテスト」「攻殻×ハッカソン」として公募され、優秀なアイデアと認められたチームが作品を持ち寄り展示した。
「攻殻機動隊」には、全身を義体と呼ばれる機械に置き換える技術が登場する。「攻殻×コンテスト」に選ばれた中では、ITKが手掛けた、遠隔操作が可能な五指可動型ロボットハンド「ハンドロイド」が義体らしさを見せていた。グローブをはめた手の指を曲げるとロボットの指が曲がるが、戻る動きは仕込まれたバネが担当する。動く仕組みを簡略化することで軽量・安価に提供できるという。
造形を行っている浅草ギ研は、Adawarpとの協業で、遠隔地にいる義体を動かし現地の情報を得られるようにする「テレポテーションデコット」を提案していた。VRヘッドマウントディスプレイを着けた人が顔を動かすと、離れた場所にある人形の顔が同じように動く。3Dプリンターを使って遠隔地に自分のコピーを作り出し、自分と接続して行動させたり、情報を集めたりする遠隔操作義体が作れそうな技術だ。
こうした「攻殻×コンテスト」で最優秀賞を受賞したのは、横浜市立大学小島伸彦研究室が提案した、全身をサイボーグ化した場合に必要となる人工臓器を作り出すためのアイデア。すべて機械にすれば東京ドームくらい巨大になる人間の肝機能の再現が、バイオテクノロジーを取り入れることで、人間よりもコンパクトなサイズの肝臓で可能になるという。サイボーグの開発には必須の技術と言える。
「攻殻×ハッカソン」の部門では、Shiftによる「空圧式人工筋肉身体防御スーツCyber Protection Suit」が最優秀賞を獲得。人工筋肉を使った生体防御スーツで、装着した人が体に力を入れると、センサーがキャッチしてタンクからエアが送り込まれ、表面に並べられた人工筋肉を固くし、外部からの衝撃を吸収・拡散させる。テロリストなどを相手に戦う「攻殻機動隊」に最適の技術だ。
「攻殻機動隊」では、ネットワークにダイブし情報の海を泳いで必要なデータを集めるビジョンも登場する。これを再現したのが、フルダイバーによる「電脳空間2016」。モニターやマウスといったデバイスを使い閲覧・使用するのが通常のウェブサイトやアプリケーションを、VRヘッドマウントディスプレイや、足で踏むコントーラーを使い、視覚や触覚といった人間の五感で操作できるようにしていた。
すぐにでも実用化されそうなアイデアが、Biomachine Industrialによる「視覚機能拡張インターフェースシステム」だ。30倍ズームのデジタルカメラをヘッドマウントディスプレイに仕込んだようなデバイスで、人間が1点を注視する筋肉の動きを察知して、ズームを伸ばしてその部分を拡大して見せる。両手がふさがっていてもズームアップできる技術は、スポーツ観戦のような娯楽から、災害地での救援活動など様々な分野に応用できそうだ。
会場には、特別展示としてMeltinMMIの「高性能義手」が登場。手首と肘の関節の間に3つの筋電センサーをとりつけ、義手を動かす技術で、以前は有線だったものが、無線化に成功して離れた場所からも義手を操作できるようになっていた。
イベントでは、「攻殻機動隊」に登場する、人工知能を持って自在に動き回る「タチコマ」を作ろうとするプロジェクトも発表された。インターネットと?がる家電製品などを送り出しているCerevoが10分の1サイズのものを製作し、海内工業とkarakuriは2分の1サイズという大型のものに挑む。バーチャルのものをリアルにするこうした挑戦から、技術の革新が生まれそうだ。
そのCerevoは、2月に行われた模型の祭典「ワンダーフェスティバル2016[冬]」にブースを構えて、アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」に登場する変形銃「ドミネーター」を完全再現した製品を出展して話題を集めていた。
データベースから対象となる人物に関する情報を参照し、犯罪係数というものを判断して捕縛するなり消滅させるといった攻撃を行う銃。Cerevoではスマートフォンと組み合わせ、カメラでとらえた人物の係数を表示しつつ、それに合わせて人間を麻痺させるパラライザーから、完全に消し去るエリミネーターへと、アニメのとおりに変形する模型を作り上げた。8万円前後と高額にもかかわらず、購入を予約する人でブースには長い列。たとえ模型でも、本物っぽさを追求することでユーザーの関心を呼ぶことを示した。
「ワンフェス」では、VOCALOIDのキャラクターとして人気の初音ミクがロボットとして登場して注目を集めていた。コミュニケーションロボットの「BOCCO」で知られるユカイ工学が持つロボットドール「iDoll(アイドール)」の技術と、グッドスマイルカンパニーが手掛けるフィギュア「ねんどろいど」が持つ独特なスタイルが合体。こうして生まれた「HATSUNE MIKU by iDoll × Nendoroid」は、人の声を判断して歌い踊る。これまでの初音ミクファンだけでなく、ロボット好きも含め幅広い層にアピールしそうだ。
関連記事