本物の迫力 JR貨物の「電車でGO!!」をやってみた 挙動不審な男性が飛び込んできて…
JR貨物の運転士を養成する中央研修センター(東京都品川区)。そこには、非常に珍しい機関車のシミュレーターが設置されている。まさに貨物列車の「電車でGO!!」。初挑戦の記者がやってみた。
まさに本物の迫力
中央研修センターにはシミュレーターが計4台ある。新形式機関車2車種(EF210、EH500)と国鉄型1車種(EF81)、ディーゼル機関車1車種(DE10)。平成6年10月に運輸大臣(当時)の指定を受け、運転士の養成や教師研修などを行っている。
記者が挑戦したのは、新形式シミュレーターのEF210だ。運転席前面に設置された大型モニターに映る景色を見ながら、実車と同じ運転台を使う。さっそく運転席に乗り込むと、圧力計、速度計、電流計が目に入った。まさに本物だ。
「右側がアクセルに当たるマスターコントローラー(マスコン)、左側がブレーキです」。JR貨物の運転士経験者の職員から基本的な操作方法を学ぶ。何事もなければ、この2つのレバーだけで運転できるはずだという。運転士を養成する機械だけあって、何事もないはずがないのだが…。恐るおそる右側のマスコンを手前に引いた。
「ホームでは走らないでください!」
出発点の設定は、岐阜県の東海道本線醒ヶ井駅付近。緩やかなカーブの線路上からスタート。10両以上のコンテナ車を積んだ貨物列車だけあって、動き出しが遅い。加速もなかなかしない。
《ガタンゴトン、ガタンゴトン》
列車がレールの継ぎ目を通る度に、振動が座席から伝わってくる。かなりリアルだ。4D感覚で本物の電車に乗っている気がしてくる。
大型モニターを見ながらゆっくりと列車を進める。左右に広がる田園風景が美しい…などと見とれているうちに、速度計のメーターに目をやると、時速80キロまで上がっている。結構なスピードになってるのに、意外と気づかないものだ。
しばらく進むと、前方から駅が近づいてきた。醒ヶ井駅だろうか。緊張で確認する余裕もない。ランドセルを背負った小学生の男子と女子がホーム上でクルクルと追いかけっこをしている。ホームの端まできて急に向きを変え、冷やっとする。「ホームでは走らないでください」というアナウンスが頭をよぎる。その通りだ。
白シャツの男性が飛び込み
左のレバーを押し出し、ブレーキを入れてみた。貨物の影響だろう。こちらもやはり思ったより効きが悪い。「急ブレーキなど望むべくもないな」と思いながら、遠方に広がるきれいな山並みを眺めた。シミュレーターの映像は、実際に車窓から撮影した動画をもとにしているそうだ。
ちなみに、運転席の背後にある無数のスイッチも本物そのもの。1度落とすと、電車の再立ち上げからしなければいけないスイッチもあるらしい。慎重な取り扱いが必要だ。
2つ目の駅(米原)が近づいてきた。中州のようなホームの手前に踏切があるのが見える…と視界の左端に白いシャツの男性が映った。なにやら挙動が不審だ。
「あっ」
白シャツの男性が線路を横切ろうとしている。慌てて両方のレバーを全部前に押し出した。アクセルを切り、ブレーキを最大にして列車を止めようとしたのだ。
時すでに遅し…。重たいコンテナを積んだ列車が急に止まれるわけもなく、白シャツの男性の上を通り過ぎた。そこはかとない罪悪感にさいなまれながら、駅を通過した…。
「環境に優しい」鉄道輸送
シミュレーターには、このほかにもさまざまなアクシデントが設定されている。動物(シカ)の侵入、土砂崩壊、沿線火災、ホーム乗客の接近…。季節や時間帯の設定もあり、雨天や雪、夕暮れ時や夜間の走行など、運転士はあらゆる条件下で冷静な判断と行動が求められる。
中央研修センターは、貨物列車にコンテナを積み卸しする東京貨物ターミナル駅や機関車の手配などをする大井機関区と隣接。地上と同じ高さの駅でトップリフターが(31フィート(約10メートル)の大型コンテナを持ち上げる姿や、機関車が並ぶめったにみれない景色を見ることができる。
JR貨物の76線区7968キロ。貨物駅は152駅ある。機関車の数は590両、貨車は7310両にもなる。1日に走る列車の本数は478本。JRの本島3社(東日本、東海、西日本)のような勢いはないが、ここ数年は地道に利益を上げている。
JR貨物広報室の担当者は最近の鉄道貨物動向について「高速道路網の発展で、かつてほどの輸送量はなくなりましたが、自動車輸送に比べ環境に優しいところが見直されてもいるんですよ」と説明した。
関連記事