【プロフィル】鍋川康夫
なべかわ・やすお 1992年早稲田大学理工学研究科物理および応用物理専攻博士課程前期(修士)修了。同年東京大学物性研究所技官。博士(工学)。2001年から理化学研究所研究員を経て現職。
■コメント=超短パルスレーザーの広帯域コヒーレンスを物質の超高速制御に生かしたい。
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■自然免疫の記憶メカニズムを解明
□理化学研究所石井分子遺伝学研究室 上席研究員・石井俊輔
ヒトの免疫系には、先天的に備わった「自然免疫」と生後獲得していく「獲得免疫」がある。自然免疫はマクロファージ(白血球の一種)などにより病原体に対して初期防御を行う。一方、獲得免疫はB細胞やT細胞などのリンパ球により一度侵入した抗原を認識し、排除する。これまで、病原体感染を記憶するのは獲得免疫だけとされていたが、いくつかの現象から自然免疫にも記憶が存在することが示唆されていた。しかし、その記憶メカニズムが不明なため、自然免疫に記憶が存在することを疑問視する声もあった。
共同研究チームは、グラム陰性菌の細胞壁外膜成分のリポ多糖をマウスに投与すると、ストレス応答性転写因子ATF7を介して免疫系遺伝子のエピゲノム変化が起き、その状態が長期間持続すること、また、これによりグラム陽性の黄色ブドウ球菌に対する抵抗性が上昇することを明らかにした。このことから、自然免疫の記憶は、特定の抗原の情報を特異的に認識する獲得免疫の記憶と異なり、“特異性がない”という特徴を持つことが分かった。
自然免疫に記憶が存在するかどうかは、免疫学の根本的な重要課題であるとともに、非衛生的環境がアレルギー疾患の発症を低下させるという衛生仮説や、ワクチンの効果を高める物質であるアジュバントの性質にも関わっている。自然免疫にも記憶が存在することが示されたことは、アレルギー発症機構の解明や、効率的なワクチンの開発にも役立つ有益な結果である。
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