窮状を象徴
だが、初公判で見たのは全く別の姿だった。起訴事実が記載された文書を持った高検事の手が大きく震えているのだ。私は高検事の震える手を見ながらいろいろなことを思った。
検事もやはり緊張しているのか。告発した右翼の男らがわめき散らし、40人の立ち見傍聴人まで出た異様な法廷の空気にのまれているのか。それとも、大統領の顔色を見た法務・検察幹部から筋の悪い事件を公判まで背負わされた重圧か-。
恐らくはその全部だったのだと思う。高検事の“震える手”は、その後の審理での検察の窮状を象徴する出来事として記憶の底に定着することになった。
検察は実際に苦しんでいた。有罪の立証趣旨に合った言論の専門研究者を証人として連れてくることもできず、裁判長から証人の準備状況を問われて「現在調整中です」と応じる姿も苦しい。弁護側証人への尋問では、被告の悪意立証の証拠として日本のネット掲示板「2ちゃんねる」の書き込みを提出。弁護側から「その勇気がうらやましい」と皮肉られる始末だった。