【視点】「忖度」の意味 恣意的に歪めていないか 産経新聞論説委員・清湖口敏 (2/3ページ)

 忖度という語は、五経の一つで中国最古の詩集『詩経』(小雅・巧言)に「他人有心 予忖度之」(他人心(たにんこころ)有(あ)り、予(われ)之(これ)を忖度す)として登場する。

 「森友」問題に触れた4月1日付朝日新聞のコラム「天声人語」は、「忖も度も『はかる』の意味である。それが最近では、権力者の顔色をうかがい、よからぬ行為をすることを指すようになってしまったのか」と書き、先の詩経の一節を紹介したうえで、こう続けた。「他の人に悪い心があれば私はこれを吟味するという意味だと、石川忠久著『新釈漢文大系』にある。もともとは悪いたくらみを見抜くことを指したのか」(傍点は清湖口)。

 忖度のもともとの意味を知らない読者はこのコラムを読んで、「官僚が総理の意向を忖度したのだから、総理の考えは『悪いたくらみ』だった」と合点しかねない。コラムはこうして読者を反政権に駆り立てているのではないかと、私はコラム子の狙いを“忖度”してみたのだが、いかがか。

 そもそも、忖度の語義を「悪いたくらみを…」などと書く辞書はどこにもない。諸橋轍次著『大漢和辞典』は「おもひはかる。おしはかる。人の意中を推量する」と載せており、これが忖度のもともとの意味なのだ。「もともとは悪いたくらみを見抜くことを指したのか」とは何を根拠とした御説なのか、全く理解できない。

 念のため天声人語が引いた石川忠久著『新釈漢文大系』(明治書院)にあたってみると、通釈に「他の人に(悪い)心があれば、私はこれを吟味する」(傍点同)とあった。お分かりだろうか、天声人語は引用に際して「悪い」の前後に付されたパーレン(丸括弧)を外しているのである。

「たかがパーレン」では済まない

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