シカの害、無いはずが…奈良で「ゆずの里」目指す過疎の村、その苦闘 (2/3ページ)

東吉野村で栽培されたユズの実(同村提供)
東吉野村で栽培されたユズの実(同村提供)【拡大】

  • 北さんが畑に設置したシカよけの防護柵。材料費の3分の2は村からの補助だ=奈良県東吉野村
  • シカに食べられたユズの葉。枝に鋭いトゲがあっても気にせず食べてしまう=奈良県東吉野村
  • シカに食べられたユズの木を示す農家の北久雄さん。高さ1メートルの辺りまでは軒並み被害を受けたという=奈良県東吉野村(写真をクリックすると他の写真も見られます)
  • 東吉野村のユズ商品。奈良県内の道の駅などで購入できる=奈良県東吉野村
  • 加工場では手作業でユズの商品作りが行われている=奈良県東吉野村

 「少しでもお金を稼ぐ環境をつくらなければ」。水本実村長の肝いりで始まったのが、ユズを村の新たな特産品として売り出す「ゆずの里プロジェクト」だ。

 なぜシカの食害が?

 ユズはかんきつ類の中では寒さに強く、手入れも比較的簡単。斜面でも栽培が可能だ。さらに葉っぱや果実の香りが強い上、枝に鋭いトゲがあるため、シカによる食害を受けにくい農産物として知られている。まさに村の環境にはうってつけの農産物といえた。

 「県内にはユズの大きな産地がなく、市場での需要も高い。以前から、村で育てるならユズがいいのではないかと思っていた」と水本村長は言う。

 村は平成24年度、「木頭ゆず」の苗木の無料配布を始め、29年度までに1100株を超える苗木が配られた。現在、ユズを栽培している農家は約100軒。ただ、ユズは成長が遅く、苗木を植えて実をつけるまでに5、6年はかかるという。昨年、苗木の配布から7年目となり、ようやく本格的な収穫が期待できるはずだった。

 ところが、今年度の出荷量は約1.1トンにとどまり、目標としていた5トンには大きく及ばなかった。通常、ユズは1本の木から数十キロ、多ければ100キロの実が収穫できる。まだ成長途上とはいえ、苗木の数からすると物足りない。収穫量が伸び悩んだ理由は、なんとシカの食害にあった。

 シカも飢えていた

 「シカが5、6頭の群れでやってきて、届く範囲の葉を全部食べてしまう」

 そう話すのは、現在20本の木を育てている北久雄さん(84)だ。これまでは薬草のトウキを畑で育てていたが、ユズを植えて以降、シカが頻繁に現れるようになったという。

 「トゲなんて全く気にしていない。器用に後ろ足で立って葉を食べているのを見たこともある」と苦笑混じりに話す。

 なぜシカが好まないはずのユズが食害を受けるのか。近畿大農学部の沢畠拓夫准教授(動物生態学)は「シカの生息密度が上がった結果、昔は被害を受けていなかった農作物が食害に遭うようになっている」と指摘する。

「シカは空腹の状態だと枯れ葉や毒草すら食べてしまう」