【経済インサイド】豚コレラでのワクチン接種、慎重にならざるをえない理由 (2/3ページ)

相次いで豚コレラが発生した愛知県田原市の養豚場周辺から作業に向かう防護服の陸上自衛隊員ら=2月15日午後
相次いで豚コレラが発生した愛知県田原市の養豚場周辺から作業に向かう防護服の陸上自衛隊員ら=2月15日午後【拡大】

 豚コレラは平成4年まで国内で確認されており、ワクチンは広く使われていた。その後、使用を中止。19年にはウイルスを完全に封じ込め、27年に国際機関にようやく「清浄国」と認められた経緯がある。

 今回、再びワクチンの使用に踏み切れば、国際ルールが定める「清浄国」でなくなる。清浄国は、欧米を中心とした同じ清浄国へ豚肉を輸出できるほか、非清浄国からの輸入を拒むことができるが、この権利を日本は“剥奪”される。

 現在、昨年9月の豚コレラの発生で、清浄国の認定が一時停止となった。これに伴い輸出を停止しているのは台湾だけだ。ワクチンを打たずに豚コレラの発生が3カ月間なければ、「収束宣言」を出すだけで事態は収まる。農水省幹部は「清浄化の地位を返上してまで使用に踏み切るべきなのか。あくまで最終手段」と語る。

 農水省は現在、農林水産物・食品の31年の輸出額を1兆円にする目標を掲げ、海外需要に向けた「攻めの農業」に取り組んでいる。ワクチン接種を決めれば、こうした試みに水を差すのは必至だ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や欧州連合との経済連携協定(EPA)の発効で、安価な輸入品が拡大し、国内農家を苦境に陥らせかねない。これに対して、農水省は輸出で光明を見いだそうとしている。豚肉に関しても、30年の輸出額(速報値)は前年比4.2%増の10億5500万円と金額ベースでは微増にすぎないが、今後、質の高さを売りに反転攻勢をかけようとしている。

ひとまず野生イノシシへ