ストレスチェック制度 情報漏洩、従業員に不利益はない?
ストレス社会で働く(1)従業員が自身のメンタル状態を把握し、職場環境の改善につなげる「ストレスチェック制度」が昨年12月から始まった。高ストレスによる従業員の休職、退職、自殺防止が期待される一方、結果次第で従業員が不利益な扱いを受けないかといった課題も多い。
ストレスチェックは厚生労働省が推奨するマークシート式の簡易調査票などを使って実施する。個人結果は本人の了承を得ることなく、会社や第三者に開示されることはないというが、情報漏洩はないと言い切れるのか。
「ストレスチェックを行う前に企業は実施事務従事者を決める必要がある。人事部長クラスや役員といった人事権を持つ人はなれません。従事者には守秘義務があり、個人結果が会社に知られることはないということになっています」
メンタルヘルス対策を含めた従業員支援(EAP)サービスを提供するフィスメック(東京都千代田区)出版事業部の白崎哲史氏が説明する。しかし、必ずしも安心できるわけではないという。
「制度上、実施者が個人結果を見て、医師による面接指導が必要な高ストレス者を選定しますが、実施事務従事者はそのサポートをしますので、誰が面接指導の対象者であるかも知ることになります。上からその情報を『出せ』と言われたときにどうするのか。こちらは関知できない」と不安を吐露する。
従業員が高ストレス者の結果が出て面接指導を申し出れば、会社に情報が開示されることになる。結果を理由に解雇や不当な配置転換は認められていないが、従業員の心配は尽きないはずだ。
白崎氏は「面接した医師が『異動を検討したほうがよい』と報告した場合、会社が鵜呑みにして、本人にも言わずに異動を決めることはあり得る。これまでメンタルヘルスの休職者を扱った経験のない会社ならなおさらだ」と危惧。厚労省のマニュアルにも記述がないそうだ。
さらに簡易調査票では、恣意的に回答することで結果が容易に予測できるとの指摘もある。負担の少ない部署への異動や休職するために高ストレス者を装う従業員が出てくることも警戒される。
「紙の質問では限界があります。厚労省のマニュアルでは看護師、心理士、保健師らがカウンセリングする補足的な面談も可能としています。詐病も分かるでしょうし、高ストレスでも業務が続けられる人、鬱病手前の人とかも分かるでしょう」
精度は上がるだろうが、本当の高ストレス者が“仮面うつ”を疑われては元も子もない。客観的なデータから問診を補強するものに光トポグラフィー検査がある。前頭葉前部の血流量を測定しグラフ化する検査で3分ほどで終了。健常者、鬱(うつ)病、双極性II型障害(躁鬱病)、統合失調症を波形パターンからそれぞれ判別する。
光トポグラフィー検査を実施している新宿ストレスクリニック(東京都新宿区西新宿)の川口佑院長は、ストレスチェック制度について「健康診断を受けたことが病院に行く動機付けになる人がいるように、メンタルの治療を受ける動機付けには非常に良いと思う」と評価する。
一方で「(ストレスチェックの中で費用のかかる)光トポグラフィー検査を全員が受けるのは難しい」とも。しかし、会社のストレスチェックの実施体制や結果に不安を感じたら、自身で検査を受けてみる選択もあるだろう。
同クリニックの協力を得て、昨年11月に鬱病と診断され、今年1月末まで3カ月にわたり休職した映像製作会社に勤める30代の男性社員の光トポグラフィー検査に密着することになった。
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