アントワープ中央駅(1)ベルギーが誇る世紀の名作 “世界一美しい”風情ある駅舎

江藤詩文の世界鉄道旅
待ち合いホールを抜けてプラットホームへ

 ベルギー第二の都市アントワープといえば、日本人にとっては何といってもあの涙をよぶ名作アニメ『フランダースの犬』の舞台であり、見どころは“ネロとパトラッシュ”が終にその前で息を引き取る巨匠・ルーベンスの大作だったりするのだが、世界ではあの感動作品は意外と知られていない。ベルギー人いわく「そんな悲しい話を子どもに聞かせたら、子どもがなかなか寝なくなって困る」そうだし、アメリカに至っては、なんと“実は仮死状態だったネロは生き返り、幸せになった”と、なんだか腑に落ちないハッピーエンドを自由につくりあげているくらいだ。

 それじゃあアントワープはといえば、世界では“ファッションとダイヤモンド”の都市であり、3大名所はルーベンスの作品を収蔵する「アントワープ聖母大聖堂」(ちなみに『フランダースの犬』に登場する作品はメイン展示ではなかった!)、市庁舎前の「マルクト広場」にそびえる「ブラボー像」、そして「アントワープ中央駅」だ。

 1905年にベルギーを代表する建築家ルイ・デラサンセリの設計によって1905年に完成した「アントワープ中央駅」は、2011年にはアメリカの旅行雑誌「トラベル・レジャー」のウェブサイトで、2014年にはイギリスのホテル予約サイトで発表された「世界でもっとも美しい駅」ランキングにおいて、双方でトップに輝いている(ちなみに日本からは「金沢駅」が両方にランクイン)。

 屋根の全長が250m以上にも及ぶというこの駅舎は、券売窓口などが設けられた、天井の高い重厚感のある待ち合いホールとプラットホームで雰囲気ががらりと変わるドラマティックな空間だ。さすが世界一の美しさとあって、あっちにもこっちにも“撮り鉄”と思われる、バックパックを背負ってカメラをぶら提げたひとり旅らしき男性の姿がある。 一列に並んで仲良く撮影したり、順番を譲り合ったり。夕方の駅構内には、さすがチョコレート王国ベルギーらしくチョコレートの溶ける甘く濃密な香りが立ち込めていた。

■取材協力:ベルギー・フランダース政府観光局

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら