「送骨」の実態…ゆうパックで遺骨を寺に 反発よそに各地に広がり

 

 「供養心の軽視」といった批判をよそに、「送骨(そうこつ)」と呼ばれる遺骨処理の方法が広がりをみせている。日本郵便が扱う宅配便「ゆうパック」を使って遺骨を寺院に送ることをいう。送骨の実態をみてみた。

 1日に10体が送付

 東京駅から上越新幹線で約40分。埼玉県熊谷市の曹洞宗「見性院」には、年間で約150体の遺骨がゆうパックで送られてくる。役僧の鈴木琉清さん(71)は「多い日には1日に10体送られてくることもあります」と話す。

 見性院の送骨サービスの仕組みはいたって簡単。(1)送骨を申し込む(2)見性院からゆうパックの送り状や骨壺を納める段ボールといった「送骨セット」が届く(3)骨壺をゆうパックで送る(4)見性院が供養したのちに納骨-となる。ゆうパックが使われるのは、他の宅配業者が遺骨の取り扱いをしていないからだ。

 直接納骨で3万円

 料金は永代供養墓に直接納骨(他の遺骨と一緒に合葬・合祀(ごうし))する場合は3万円。見性院が骨壺ごと10年間保管したのちに合葬・合祀する場合は10万円。送骨セットの費用として別途3千円が必要になる。

 橋本英樹住職(50)は「『寝たきりで、妻の遺骨を納めに行けない』『絶縁していた親類の遺骨があるのですが…』などの相談を受け、どうしたらいいのかを考えているときに送骨の話を聞き、人の役に立つ方法だと思い始めました」と話す。

 利用者の事情は千差万別。橋本住職によると、独身で認知症を患っていた人の成年後見人が送ってきたこともあれば、それまであった墓を取り潰してしまう「墓じまい」をしたので遺骨を置く場所がないといったケースもあるという。橋本住職は「親の墓を子供が守るという時代は終わりつつあります」と話す。

 葬骨が注目を浴びるようになったのは10年ほど前。富山県高岡市の日蓮宗大法寺が、墓の承継者がいない人向けに建てた合葬墓に、各地から骨壺が送られてきたことが先駆けになったといわれている。その後、全国各地に送骨を受け入れる寺院や霊園が散見されるようになった。「新しい供養のかたち」とうたって、インターネットで大々的に宣伝する寺院も現れ、その数はざっと見るだけで50件近くになる。

 「供養を軽視」

 斬新な試みなだけに反発も強い。曹洞宗の内部文書では送骨を「社会の要請に応えたものかといえば、それはノー」「供養する心を軽視し、檀信徒の信仰心を滅減させる、もしくは失わせる結果にもつながりかねない」などと批判している。

 司法でも、送骨による永代供養墓を始めようとした愛媛県内の寺院が、行政による不許可処分の取り消しを求めた訴訟の判決(寺側敗訴)で、「(送骨サービスは)国民の宗教感情に反するとしてもおかしくない」と言及している。

 とはいえ、送骨の認知度が広がりつつあるのは事実。そして、送骨の利用者に信仰心や供養の気持ちがないのかといえば、そうではないという事実もある。鈴木さんは「遺骨を送りっぱなしではなく『法要をしてほしい』と言ってくる方もいらっしゃいます。それに『送骨を考えているのですが』という仙台にいる方が、わざわざ熊谷まで永代供養墓を見にきたこともあります」と話す。

 送られてきた遺骨が眠る見性院の永代供養墓は山門脇にあり、花が手向けられていた。花が途切れることはないという。誰が供えているかは分からないが、もしかしたら送骨サービスの利用者なのかもしれない。(『終活読本ソナエ2016年夏号』「お墓の値段」特集から)