“ローテク”先制医療のススメ 脳・心筋梗塞の発症を予防する
【STOP!メタボリックシンドロ-ム】
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、動脈硬化を経て、要介護状態につながる脳梗塞や死に直結する心筋梗塞の要因となる。だが、メタボの段階では自覚症状がなく放置されることも多い。そうした中、個人の遺伝的特徴や生育環境の違いに着目し発症前から対策を行う「先制医療」の提唱者で、先端医療振興財団名誉理事長の井村裕夫氏(元京都大総長)が、今できる発症予防として「ローテク先制医療」を推奨している。(山本雅人)
個人の特徴に着目
「発症すると即、重篤となる脳梗塞や心筋梗塞は予防が何より大事」と語る井村氏。健康長寿のためには「病気にならない・させない医療」が重要として、病気を発症する前に予測し、適切な対策によって発症後にかかる治療や介護にかかる費用を抑制する「先制医療」の研究推進や考え方の普及に取り組んでいる。
「病気の予防」という意味では「予防医療」という言葉が知られている。だが、井村氏によると、「予防医療」が「集団」を対象に疾病の発生原因などを調べたデータに基づいているのに対し、「先制医療」は、遺伝情報など「個人」の特徴に着目し予防を目指す点が異なっている。
例えば、疫学データを基に「喫煙は病気のリスク」といった啓発を行う予防医療は、「統計学的には正しいが、愛煙家でも病気にならない人もおり、必ずしも個々人には当てはまらない」と井村氏は強調する。このため、予防へ向けた禁煙、食事や運動などの生活習慣改善の動機付けになりにくい欠点があるという。
一方、先制医療は個人の遺伝的特徴や生育環境などをまず調べ、疾患ごとにハイリスクの人を抽出。最新の分析技術を駆使した超早期診断を行い、発症のはるか前に兆候をつかみ対処することを目標にしている。
先制医療では、対象者自らがハイリスクという自覚を持ちやすく、生活習慣改善の“挫折”も減る。井村氏はこれらのメリットを一般の人に知ってもらおうと今年2月、『健康長寿のための医学』(岩波新書)を刊行した。
低体重出生も注意
だが、ハイリスクの人の正確な抽出や超早期診断・治療にはハイテク医療機器などの活用が前提となり、現状では「さらなる技術革新が必要」(井村氏)という。このため、次善の策として、集団のデータを用いながら個の要素を取り入れた“ローテク”先制医療を勧める。
メタボや糖尿病のケースでは、「出生時に低体重や過体重だった人がなりやすいとの疫学データがある。自分の出生時の体重を把握することにより、個別にリスクが高いかどうかを推定できる」とする。
低体重だった人がハイリスクになるのは「胎児期に低栄養だった人は、その環境に適応してしまった結果、出生後の豊かな食環境では栄養が余剰となり、ため込んでしまう」からだという。
食事バランス意識
ハイリスクと推定された人には、超早期診断・治療の代替として、生活習慣の改善を促す。これまでの豊富な臨床経験から井村氏は、食事の量を減らすことよりも「脂質やタンパク質、糖質のバランスを意識してほしい」とアドバイスする。「最近の研究で、100兆個あるともいわれる腸内細菌の構成の変化がメタボや肥満の原因となることが分かってきており、栄養バランスの変化が、腸内細菌のバランスも崩してしまう」といい、食事のバランスに注意するだけでも発症抑制効果があるとする。また、「健康の維持には運動も忘れてはならない」とも付け加える。
井村氏は「自分の健康は自分で守るもの」としたうえで、「先制医療の研究や普及が進むまでにはもう少し時間を要するが、個々がリスクの把握に努め、対策を講じれば一定の効果が期待できる」と話している。
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