【翻訳机】中村妙子(翻訳家) 幼いころのストーリーの濫読 (2/3ページ)

2014.1.13 13:10

 難しい表現は読みとばしていたのでしょうが、子供ながらに、おかしいなと思うことはあったのです。『三等水兵マルチン』という、イギリスのユーモア小説。艦上演芸会の掛け声が「イヨーッ、成田屋!」でした。成田屋が歌舞伎の役者さんだということは知っていましたから、「変だなあ」と首をかしげました。

 『世界滑稽名作集』にはジーン・ウェブスターの「蚊とんぼスミス」と、ウッドハウスの短編が収められていました。前者は後に「あしながおじさん」の題で知られるようになった青春文学です。文中、孤児院育ちのジェルーシャが女子大学に入学して、両親のそろった、幸福な家庭で育った少女たちとのギャップに気づくくだりで、〈どの子も『娘大学』を読んでいるのに、あたしは読んでいません。それでさっそく『娘大学』を取り寄せました。おかげで友だちがお漬物の話をしていても、何のことか、今ではちゃんとわかります〉というところ。お漬物という言葉から、私の脳裡(のうり)に浮かんだのは、我が家の台所に置かれている桶(おけ)の中の白菜の漬物。どういうことかと、首を捻(ひね)りました。後に津田塾に進み『リトル・ウィメン』の原書を読んで、『娘大学』は『リトル・ウィメン』だったのだと悟りました。〈お漬物の話〉というのはエイミーが授業中にこっそりライムの砂糖漬けを回しているところを先生に見つかる場面だったのです。

幼いころのストーリーの濫読(らんどく)に起源があるようです

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