【書評】『北極男』荻田泰永著 (2/2ページ)

2014.1.13 16:06

 ブリザード(暴風雪)に遭って動けなくなったことがあった。風雪が間断なく吹き続け、視界は5メートルもない。テントが飛ばされたら凍え死んでしまう。テントの風下側に雪が吹きたまってテントを押しつぶしそうになる。雪を取り除くため、両足を踏ん張りながら雪かきをしているとき、急に死を身近に感じ、荻田はこう考えた。

 「北極であろうと東京のど真ん中であろうと、死はいつも僕たちのすぐそばに存在している。しかし日本でそれを感じることはあまりない。死の匂いに触れたときに初めて生をリアルなものとして大事に思う」

 極限状況で得た生と死についての思考である。

 36歳の荻田は今年2月、また北極に旅立つ。前回の雪辱戦である。北極点まで海氷上を780キロ、食料や燃料の補給を受けずに独りで歩く。しかも海氷は年々流動的になって割れやすく、危険度が増している。だが成功すれば日本人初、世界で3人目の快挙となる。がんばれ「北極男」。(講談社・1785円)

 評・木村良一(論説委員)

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