ちなみに、マハラジャ・エクスプレスをもっとも多く利用するのはヨーロッパからの旅行者だが、コンチネンタル料理の用意があるので、国別には対応していない。ただし乗車前にリクエストしたり、停車した町の市場で購入できるものであれば、当日でも可能な限り、食べたい料理を提供するそうだ。
42歳のインド人料理長は、まだ日本を訪れたことがない。貯金をして、いつか京都で料理を味わうのが夢だと話す。レシピ本を読み、デリーやムンバイの日本料理店で食べた数少ない経験を思い出しつつ、ああでもない、こうでもないと、ほぼ半日がかりでランチを整えてくれた。
ようやく出てきたのは「ザリガニの味噌と醤油のスープ仕立て」。日本人のわたしの予想をはるかに超越した、奇想天外すぎる料理に驚く。「これは日本料理ではないわ」。興味津々で同席していたフランス人夫婦のことばに、うなだれて肩を落とすシェフ。
ところがいざ食べてみると、どことなくインド風味ながら、ちゃんと“日本風料理”として味がまとまっているではないか。プロの料理人ならではの感覚に、また驚いた。
■取材協力:インド政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。