都内の洋書店を訪れると、ドイツ人の女性の姿。名取さんはハグで歓迎され、洋之助さんは少し恥ずかしそうにしていたという。「父は人生が楽しくなる努力をしていた。周りが迷惑したこともあったと思うけれど、マイナスのエネルギーじゃないんです」
子供には多くの愛情を注いだ。小学生のとき、女子部員のいなかった山岳部に入部を希望した名取さん。洋之助さんは学校に行き、入部を頼んでくれた。「怒ることも、何かをやらせることもなかった。いつも自由にさせてくれました」
優しい父との別れは突然、訪れた。洋之助さんは昭和37年11月、胃がんのため、52歳で亡くなった。
名取さんはドイツに留学中。洋之助さんに最後に会ったのは亡くなる2カ月前、9月にミュンヘンの飛行場で見送ったときだ。「ホームシックになった私を心配してドイツまで来てくれていた。父の仕事がてら、2人で2カ月ほどヨーロッパを旅しました。胃がんとは知らなくて」