実験的な小説を書き続けてきただけに、随所に自作が引用される。「同じことをやるなら、これ以上のものを書け、ということ」と笑う筒井康隆さん(野村成次撮影)【拡大】
「SFには〈センス・オブ・ワンダー〉っていい言葉があるけれど、驚きがあって『ぞくぞくする感じ』と言ったらいいのかな。文学賞の選考で物足りないのは、一番大事なその凄みがないから」。とはいえ、実践は簡単ではない。全く正当性がないことを自信を持って書いたときに意図せず〈凄み〉が現れることもある。〈色気〉といっても愛欲とは無関係。静謐(せいひつ)な自然描写の中に死の気配が漂い〈色気〉が発散している例もある。各項目の記述から伝わるのは自明とされる概念を徹底して疑い揺さぶる、作家ならではの視線と深い思索だ。
「常識や良識ってやつは疑ってかからなきゃいかんね。悪いと言われていることは本当に悪なのか?もしかするとそれは非常に良いことじゃないのか、という根源的な問いを持たないと」。そんな姿勢は私生活も含めた〈品格〉の項とも関係してくる。「作品で嘘八百を書いているからこそ、自分自身のことは沈黙や嘘でごまかさない。それが僕の掟。だから(逆に作品の中だけで)道徳家ぶっている作家を見るとむかむかしますよ」