20年近く闇の体験を続け、著作や「闇歩きガイド」の実績もある著者によれば、人間の五感は闇の中ではすっかり変わるらしい。微かな音やにおいが自分でも驚くほど感じ取れ、視覚は超高感度になる。視界の全体をしっかり捉える夜目の働きは、闇夜の暗い道を歩くときにはとても重要であり、この視力は武術の基本にも通じていると、宮本武蔵の『五輪書』を引いて指摘する。手足の触覚も敏感になるようだが、さらに第六感の働きで、超能力者になったような気分にもなるとか。また、夜通し闇の山を歩いて寝不足で疲れ果てると、幻覚から超常現象も現れるそうで、著者は丹沢の尾根で人の声で喋(しゃべ)る鹿に出会ったという。
本書は光と闇の厳粛なドラマにわれわれを誘いながらも、昼の山に慣れておかなければ夜の登山は危険だ、という注意も添えている。(集英社新書・756円)
評・中原文夫(作家)