ケンは言う、「カネのために絵を描くと、どこかさもしい絵になってしまう」と。画業を誇ることや、名声や野心のひとかけらもない画家の言葉に感銘をうけた香魚子は、個展の開催を強く決意する。
孤高の画家と生涯の友人との青春の日々も描かれる。画家の感性の鋭さや、情感の繊細さがうかがえ、興味深い。
なぜか、私は雪深い北国にひかれる。厳冬に一人旅立ち、吹きすさぶ竜飛岬に立ったこともある。津軽海峡から駆け上がってくる雪煙りは、まるで白い竜のようであった。
青森出身の太宰治や寺山修司、棟方志功、そして常田健は、「白い情念」を吐く竜なのかもしれない。(PHP研究所・本体1700円+税)
【プロフィル】伊藤謙介
〈いとう・けんすけ〉昭和12年、岡山県生まれ。京セラの創業に参加。経営哲学の継承に力を注ぐ。著書に『挫けない力』など。