書影『帰ってきたヒトラー』上巻【拡大】
こうした「ユダヤ的」商業主義メディアをヒトラーは「自分と同類」と認識した上で、パブリシティーでの共犯関係を築いていく。ナチズムのメディア戦略を総統の内面から描いて見事である。
すでに映画化も決まっているが、併せて鑑賞をお薦めしたい映画に『チャンス』(米・1979年)がある。知的障害がある庭師チャンスが、周囲の誤解からテレビ出演して有名になりアメリカ大統領候補になるシリアス・コメディーだ。テレビの有名人(ビッグネーム)を大人物(グレイトマン)と思い込むメディア社会を痛烈に風刺している。本書はそれと真逆である。「極悪人」が、そのステレオタイプを逆手にとって名声を獲得してゆく新手のピカレスク・ロマンといえようか。(河出書房新社・各巻本体1600円+税)
評・佐藤卓己(京都大大学院准教授)