井家上隆幸・評【拡大】
著者は「敗戦直後、急進的な青年の団体が内大臣木戸幸一の命を狙ったが、それは木戸が『和平論の元凶』だったからではなく、なすべき仕事をしない『君側(くんそく)の奸(かん)』だったからだ」と手厳しい。
戦後、近衛は、天皇退位までも視野にいれ憲法改正案の準備を進めた。もしそれが実現していたならば、70年近くたった今もなお〈戦後〉という、その〈戦後〉はとうに終わっていたのではあるまいか。
「戦後のメディアが『弱い人間』『すぐに投げ出すクセがある』という木戸がまき散らした文麿のイメージを定着させてしまったが、和平を公言し、果敢に終戦工作に動いた文麿は決して弱くはなかったのだ」という近衛文麿への愛惜と、木戸幸一への指弾を軸とした本書は、鮮烈な〈昭和史〉である。(平凡社・本体1900円+税)
評・井家上隆幸(文芸評論家)