父に仕込まれた家業の誇り 酒造販売卸「豊島屋本店」当主・吉村俊之さん (2/3ページ)

2014.3.30 16:51

「父は私の興味関心を尊重し、我慢強く見守ってくれました」と話す吉村俊之さん(寺河内美奈撮影)

「父は私の興味関心を尊重し、我慢強く見守ってくれました」と話す吉村俊之さん(寺河内美奈撮影)【拡大】

  • 豊島屋ののれんを守る吉村隆之さん(右)と俊之さん=平成23年(NPO法人「神田学会」提供)

 俊之さんもよく似たコースを歩む。大学院で物理を学び、専攻を生かそうと、「一生、骨を埋めるつもり」で日立製作所に入社。中央研究所で電子線を用いた半導体の超微細加工技術や半導体メモリーなどの基礎研究に従事し、やりがいを感じていた。

 しかし、30代後半になり、家業を継ぐ決心をする。「特別な出来事や、きっかけはなかったと思う。ただ、父の期待を感じ、自然と継承を受け入れた」

 振り返ると、関西地方から12歳で東京都内に引っ越した後、東京・東村山にある酒蔵「豊島屋酒造」にも度々連れて行かれ、酒造りの苦労を知った。江戸時代の発祥の歴史や豊島屋中興の祖である曽祖父(12代、吉村政次郎さん)の話も折に触れて父から聞いていた。

 「豊島屋は明治維新で武家や大名からの取り立てができなくなり、倒産の危機に貧し、関東大震災と空襲で社屋も失いました。3度潰れかけても必死に家業を守った先人の努力を思うと、続けることそのものに重みを感じた」

 家業に誇りを持ち、自分とは分かち切れない大切な存在になるよう昔から父に仕込まれていたのかもしれない、と思うこともある。

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