周囲が薄紅色の朝もやに染まっていく中、宿泊したクルーズ船の屋上デッキで四方を見渡す。無数にある島の影が徐々に浮かび上がってきた。前日の夕焼けも素晴らしかったが、一日の始まりとなる夜明けにまた新たな感動が込み上げてくる。
首都ハノイからバスに乗り3時間半ほどで、ハロン湾クルーズの起点となるバイチャイに到着。世界自然遺産のハロン湾には4万3400ヘクタールに及ぶ広大な湾内に大小3千以上(世界遺産エリアには1500以上)の島々が点在する。「海の桂林」とも呼ばれ、奇妙な形の岩が幾重にも延びていく景色は水墨画のように幻想的だ。
中国・桂林からハロン湾まで連なる石灰岩層の浸食が不思議な景観をつくり出し、ティエンクン洞窟をはじめ島々には多数の鍾乳洞が存在する。
ハロンは「龍が降りた」という意味のベトナム語。敵に包囲された際、龍の親子が現れて口から宝石を吐き出して船を沈めていったという伝説が残る。その宝石が大小さまざまな形の島になったそうだ。
乗船したのは18世紀まで海の主役だった木造帆船(ジャンク船)を模したバーヤクラシックⅡ号。洗練された白の外装に対し、内装は落ち着いた焦げ茶をベースにしている。乗客のほとんどが欧米人。日本人を含めアジア諸国からの旅行者は日の入り、日の出を見ることなく日帰りでハノイに戻ってしまうという。もったいない話だ。
一方、毎日この光景を眺めているうらやましい住民も存在する。水上生活者だ。家がないわけではない。ドラム缶や発泡スチロールに木をくくりつけた土台にコンパクトながらしっかりした家屋に住んでいる。水道、発電機も備えており意外と快適そう。台風などが近づくと船に牽引され、数珠つなぎになって安全な入り江まで運ばれるという。