「古い機関車は、水をたくさん使います」と、ファイヤーマンの副機関士は言う。石炭で加速するSL機関車は、スピード調整が非常にむずかしく、急勾配の線路を、どう上り下りするか、機関士の腕の見せどころだそうだ。この日は完全に加速し過ぎ。その分水も大量に使ったため、シエルケ駅で給水することになった。
時間をつぶすために、もっと駅を散策してみたいけれど、この便を逃すと次の列車が来るのは、およそ1時間30分後になる。車内からぼんやり上り列車を眺めていると、やっぱり所在なげにこちらを見ている男女のグループと目が合った。彼らは、ウクライナから来た旅行者。「寒さをしのぐには、これがいちばん」。そう言って大きな酒瓶を抱え上げた。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。