別によかったのだ。はじっこに連結されている1等車に、大きなスーツケースを引きずってまでわざわざ乗り込まずとも、おとなしく2等車に座っていれば…。
「今年最後の自分へのご褒美」と“1等車”のフリーパス「ジャーマンレイルパス」を張り込んだ高揚感に加えて、乗務員にも「1等車ですね!」と声をかけられ、すっかり気が大きくなっていたためだろうか。
それとも、民営のローカル線「ハルツ-エルベ エクスプレス」の目新しくもスマートなデザインに心を奪われ、何度もお世話になっているドイツ鉄道快速の赤い車体に「またこれか」と天に唾するようなことを考えた罰だろうか。
朝7時台の快速列車。通勤や通学にはまだ早い時間なのか、2等車には地元の人らしき姿がぽつぽつと認められたが、1等車はわたしひとり。貸し切り状態だった。
ゆとりを持って扉の前に立ち、下車する駅でドアを開くためのボタンを押す。何度も利用して、もう手慣れた作業のはずだった。ところが、ドアが開かない。焦って何度もボタンを押しながら、大声で「エクスキューズミー!」と叫んでみたものの、ここは“はじっこの1等車”。車掌も乗客も誰もいないのだ。