はじめは「アユタヤまで移動して安宿を探す」と言っていた彼らだが、マレー半島を縦断する「マレー鉄道」に、がぜん興味がわいたらしい。「いっしょにシンガポールを目指す」と言い出した。そこで案内係のお姉さんが窓口に案内してくれたところ、たったいまの空席は「別々の車両の2席のみ」。これを逃すと、次の便は翌日になってしまう。相談しているうちに完売してしまうと、お姉さんはせかしていたわけだ。
しばしの沈黙を経てお互いに譲り合う。帰国便の航空券を予約している超ショートステイの私と、帰国日はまだ決まっておらず、東南アジアを1カ月ほどかけて回るという彼ら。私のほうが優勢かという雰囲気になってきたとき、また1席売れてしまった。これで私が行かせてもらうことに決定。滑り込みで最後の1席を押さえることができた。「マレー鉄道の乗車券は完売することが多い」と聞いていたけれど、ウワサはほんとうだった…。
ちなみにこのカップルは、アユタヤ行きの計画を変更。翌日のマレー鉄道を、無事に確保したのだった。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら