「こんなにお腹がいっぱいで、停車時間も短いのに…」。ぶつぶつ言いながら車内に戻ると、大阪からの団体さんはとっくに完食して席に着いていた。見たところ平均年齢は60歳オーバー。お元気なのだ。
食べたり飲んだりも楽しいが、いくつかの駅には、鉄道ファンなら逃したくない見どころがある。阿久根駅では、なんと駅構外のはじっこに「ブルートレイン」が置かれていた。ピカピカと立派すぎる駅舎から少し離れた位置に、雨ざらしになっている。「かつてはこの列車に乗って、よく旅をしたんですよ」と、横須賀から来たご夫婦。窓ガラスに額を押し付けるようにして、懐かしげに中をのぞき込んでいる。首からカメラをさげた撮りテツも、2号車からわらわらやって来た。
それなのに! 扉はがっちり施錠されていて、内部を見ることができないのだ。「中を見たい人は下記に電話をしてください」と、手書きの貼り紙がはがれかけている。電話をしようとすると「出発時間に間に合いませんので」と、乗務員。そんなぁ…。
いろいろ都合もあるのだろうが、おれんじ食堂に乗車した鉄道愛好家のためにも、いつかブルートレインを開放してほしい。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら