
池波正太郎の接客もしたというサービススタッフの栗原昭広さん【拡大】
芋を使わず、角切りにした子牛の肉とハムを、ベシャメルソース(ホワイトソース)で包み、油で揚げた後、さらにオーブンで火を通す。サクッと割れる繊細な衣に、ソースのなめらかな舌触り。添えられたトマトソースの酸味とのバランスが絶妙な逸品だ。
本物志向と先進性に富んだメニューは、多くの文化人を引きつけた。森鴎外の「流行」や太宰治の「火の鳥」など文学作品にも頻繁に登場する。
中でも池波正太郎は、株式仲買店の店員をしていた10代の頃から通っていたという筋金入りだ。
40年以上パーラーに勤務する栗原昭広さん(61)は「昼にふらっと来ては、ミートクロケットやチキンライスを頼んでいらっしゃいました」と振り返る。
〈戦後の30年間、すべてがめまぐるしく変わったのに、ここの味だけが変わらぬ〉
池波はエッセー「散歩のとき何か食べたくなって」で、資生堂パーラーをこう評し、「持続の美徳」とたたえている。
変化の激しい時代だからこそ一層、歴史の重みが大切に感じられる。
【メモ】資生堂パーラー
銀座本店 東京都中央区銀座8の8の3 東京資生堂銀座ビル4、5階。(電)03・5537・6241。午前11時半~午後9時半。月曜定休(祝日の場合は営業)。ミートクロケットトマトソース2470円、アイスクリームソーダ1130円。コース料理もあり。サービス料別。