池上彰さんに聞く「今、ビジネスマンに必要なもの」 情報化社会を生き抜く鍵は? (4/6ページ)

2017.2.25 18:05

 《KEYWORD 情報を疑う力》それは自分の目で確かめた情報か?

 ◎「なぜ?」「ホントかな?」

 「いい質問ですね」。私の口癖ですが、これは私の発言についても疑問を持ってくださいね、という気持ちの裏返しでもあります。情報に触れたら、まずすべてを疑ってみる。性格が悪い人間になったような気がするかもしれませんが(笑)。「なぜ?」と問い続けることで、見えてくる真実があるのです。

 私は、できるだけ世界中のニュースの現場を、直接自分の目で見て確認するようにしています。例えば、アメリカの大統領選挙のトランプ旋風は本物だろうか? 日本から見ると、どう見ても大金持ちのわがままな暴言王にしか見えません。しかし、アメリカに行ってみると、違う事実が見えてきます。若者たちの中にくすぶっている既存の政治家に対する不満は驚くほど根深く、これまでの政治権力と全く関係のないトランプならアメリカを変えてくれるのではないかと本気で信じていることがわかりました。

 2016年5月に伊勢志摩で開催されたサミット(G7)も、日本では連日お祭り騒ぎのように報道されました。しかし、EU諸国では、それほど大きなニュースにはなっていません。それはなぜか。ロシアと中国が参加していないということもあるでしょう。EU首脳会議で定期的に顔を合わせて諸問題を話し合っているので、とりたててG7を話題にすることはないと考えているのかもしれません。しかし彼らにとっては、G7よりも難民問題やイギリスのEU離脱問題など自分たちの足もとで起こっていることのほうが緊急的な重要課題なのです。

 もちろんすべての情報を自分の目で確かめることはできません。そのために、信頼のおける 情報源をたくさん持つ。メディアだけではなく専門家など、人とのネットワークも重要です。そして「ホントかな?」という目でそれらを批判的に読みながら比較していくことで情報リテラシーはどんどん高まっていきます。

 ◎PVの高いニュースが重要なニュースだとは限らない

 東日本大震災時の原子力発電所の事故報道で、『週刊現代』は危機感を煽るような報道を行ないました。一方、『週刊ポスト』は落ち着いて対応するよう呼びかけました。結果、部数を伸ばしたのは『週刊現代』でした。読者は、センセーショナルな報道に反応しやすいのだということがわかります。

 ネットニュースも同じです。ネットメディアは広告費で成り立っていますから、できるだけ多くのPVを稼がなければなりません。Yahoo!ニュースなどが、読者の興味を煽りそうな見出しを中心に選ぶのは仕方ないことです。でも、そうやって選ばれたニュースだけに接していると、地味なニュースの中に隠されている本当に重要なことを見逃してしまいます。

 国境なき記者団が発表した「報道の自由度ランキング」で日本は72位でした。2010年には11位だった国がなぜ。東日本大震災後の原発事故報道が日本の隠蔽体質を国際的に晒したのではないかといわれています。さらに特定機密保護法の成立によって、情報の公開度が低くなっていると考えられているのかもしれません。

 今年2月には、場合によってはテレビ局の電波を止めるという高市総務大臣の発言が話題になりました。電波法と放送法をちゃんと理解していればこのような暴言を吐くことはなかったと思うのですが。電波法は、放送機器がルールどおりに稼働しているかを規定するハード面の法律です。一方、放送法は権力がメディアに介入することを防ぐための法律です。偏向報道があったからといって電波を止めることはできないのです。ただ、時の権力がメディアを恫喝(どうかつ)した。それは事実として残ります。日本に報道の自由がなくなっているとは思いませんが、萎縮の動きが目立ちます。これからは、私たち自身の情報を見抜く力が問われていく時代なのです。

 【用語解説】

 トランプ旋風

 不動産王のドナルド・トランプ氏が大統領選挙に出馬。「イスラム教徒は入国させない」「メキシコとの間に塀を作る」など過激な発言で波紋を呼ぶ。当初は泡沫候補と見られていたが、不法移民たちによって職を奪われている労働者や一部のエリートによる政治に反発する人々の支持を得て、共和党の大統領候補に指名された。

 サミット(G7)

 主要国首脳会議。G7はGroup of sevenの略。1998年よりロシアを含むG8となっていたが、クリミア編入を国際法に背く行為だと非難され、ロシアは参加資格停止となった。現在は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本の7か国。

 報道の自由度ランキング

 パリに本部を置く国際NGO「国境なき記者団」が独自の指数に基づいて毎年発表する。2016年は、1位フィンランド、2位オランダ、3位ノルウェー。ちなみにイギリスは38位、アメリカは41位。

「アラブの春」はSNSがきっかけだった

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