《KEYWORD 情報を使いこなす力》情報が世界を動かしている

◎「アラブの春」はSNSがきっかけだった
盗作疑惑でやり直しになった、2020年東京オリンピックのエンブレム問題。ネットでベルギーの美術館のシンボルマークとの類似が指摘されたことがきっかけでした。いったん疑惑が見つかると、あっという間にネット上に拡散します。さらに別の疑惑まで次々と露見していく。選挙で選ばれる政治家は、いわば人気商売です。こうなると世論を無視することはできません。疑惑を払拭できなかった結果、オリンピックのエンブレムは、再公募となりました。ネット世論が、国を動かしたのです。
舛添前東京都知事の政治資金問題も同じですね。ちょっとしたきっかけで、一斉攻撃が始まります。匿名性という武器を手にしたネット社会を象徴するような出来事です。
ネットが動かしたもっと大きな出来事が「アラブの春」です。2010年の暮れ、チュニジアで民主化運動が起こり、独裁政権を打倒しました。その運動は、TwitterやFacebookなどSNSを通してアラブ諸国の若者の間に広がり、次々と民主化運動が起こっていきました。
しかし、「アラブの春」の最も大きな原動力は「アルジャジーラ」というニュース専門の衛星放送だったのです。アラブ諸国には貧しい人も多く、識字率は決して高くありません。若者たちが拡散するSNSの情報を「アルジャジーラ」が報道することで、ネットを使うことができない多くの人たちをも動かすことができたのです。「アラブの春」はネットが火をつけ、マスメディアが爆発させたのだと言えるでしょう。
【用語解説】
東京オリンピックのエンブレム問題
2020年東京オリンピックの公式エンブレムにアートディレクター佐野研二郎氏の作品が採用されるやいなや、ネット上で類似のロゴマークの存在が指摘される。佐野氏の過去のデザインに対しても盗作疑惑が持ち上がり、ネット上で炎上。佐野氏本人の意向もあり、組織委員会はエンブレムを白紙撤回。再度公募が行なわれ、野老朝雄氏がデザインした「組市松紋」に決定した。
アラブの春
独裁者ベン=アリー大統領を打倒したチュニジアの民主化運動は、チュニジアを代表する花にちなみ「ジャスミン革命」と名づけられた。その後、独裁政権下のリビアやエジプトに広がっていった一連の民主化運動を称して「アラブの春」と呼ぶ。アラブ諸国にとって「春」は灼熱の「夏」を呼ぶあまり心地よい言葉ではない。寒い「冬」を乗り越えて「春」を待つ北半球の国がつけたネーミングだということがわかる。

アルジャジーラ
カタールの首長がポケットマネーでつくった放送局。もとはイギリスBBCがアラビア語のニュースチャンネルを作ろうと計画していたが、途中で頓挫。BBC流の言論の自由を貫く訓練を受けた記者たちが、アルジャジーラの記者になった。衛星放送のため、パラボラアンテナさえ立てれば独裁政権下のアラビア諸国でも視聴できる。アルは冠詞で、ジャジーラは半島を意味し、アラビア半島のことを指す。