この理解の延長線上で「高校5年間に200時間の職業経験が必要」「70時間の社会ボランティア活動を、授業の単位を落とした際の挽回分として使える」(時間数は学校によって違うようだ)といったルールをみると、学校教育の狙いが更に見えてくる。
息子の通っているのは職業のための技術習得を目的とした高校ではなく、科学系普通高校である。それでも職業経験が学校での勉強と並んで必須となっている。人の生活を多角的に経験するのが前提なわけだが、このシステムやルールをものすごく好意的に解釈すると、全人格的教育の決定版に見える。
しかしながら、自由時間の多い環境で子供の生活がルーズになりやすいのは避けがたい。
よって、日本の地下鉄で夏休みの部活の帰りらしい高校生たちが、例え黙って1人でスマホをいじっていても「マシ」に思える。ぼくの頭にも「没入する学校生活像」が羨望の的として浮かんでくる。
そして次の瞬間、経験の相対化ができていない自分を呪うのだ。なんやかんや言って、親も楽な方に流されやすい。子供の「没入しない生活」をもっと積極的に支えないといけない、と自省する。(安西洋之)
【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)とフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。