店員全員が「すいません!」 不思議すぎる焼肉屋で遭遇した「ダメ謝罪」 (3/3ページ)

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 店員が慌てて戻ってきたところまだ作っていないとのことで無事キャンセルに。店員は再び「すみません!」と言います。

 ここから先、混乱が続くんですよ。ビビンパや冷麺が次々と彼らの席にやってきて「注文していません」となり、店員は我々の方を見る。我々も「注文してません」と言うとこれまた「すいません!」が来る。会計時には、隣の夫妻のところに注文したものを一つずつ確認するような混乱状況に。

 そして、我々のところにも頼んだものが次々とやってきます。幸いなことにミスはなかったものの、肉がとにかく「無難」という言葉しか出ず、年数回の焼肉に行ったときの「うわっ、なにこれ、ご飯に巻きたくなる、やべー!」という気持ちに一度たりともならず、「あぁ、コレか……」という状況でした。一つの皿については、無難どころかマズく、一人一切れ食べたところで20分前までの「私たちはこの店を選んで良かったプレイ」が崩壊し、「これからは正直に話そう」モードに入りました。

“すいません”なんていらない

 偽りの仮面を脱ぎ、「あのさ、これ……、おいしくないよね……」「そ、そうだよね……。言いづらいけどさ……」と正直に述べました。「昨日行ったしゃぶしゃぶと金額変わらないけど、満足度は10分の1以下だよね……。ビールはよく冷えてておいしいけど……」。こんな感想を述べてしまったことの罪滅ぼしというわけでもないのですが、追加のビールと焼酎の水割りを頼み、店員ににこやかに「お願いしまーす!」なんて言います。

 そして、店員としても「最初に約30分待たせた」という負い目があるせいか、もはや互いに「すいません」と言い合う謎過ぎる展開になってしまいました。結局「味」の問題により、追加の肉を頼むことはなく、20時30分には会計をすることになりました。

 すると驚いた。私たち以外に客は誰もいなくなっていたのです。恐らく、どこのテーブルも子供達は早く寝なくてはいけないため、20時にはお開きということだったのでしょう。

 さっきまでの喧騒は一体なんだったのだ、と思いつつもその表情を見逃さなかったのか、例の推定年齢60歳の女性店員がこわばった笑いを浮かべながら「すいませんね、まだ店が開いてそんなに経ってなくて、私もね、この仕事をやる前までは事務の仕事をしていたので、まだあんまり慣れてなくてね。すいませんね」と言います。

 会計を終えたのですが、確かに「サービスしますね」の言葉通りビール2杯分は含まれていない。そして、外に出ようとガランとした店内を歩くと店員全員が「すいません」と頭を下げるのでした。そんな風に見送られるのはいたたまれない気持ちになり、なぜか我々も頭を下げながら「すいません」と言い続け、外に出てようやく「フーッ」と一息つき、この謎の「すいません焼肉屋」から解放されたのでした。

 店も客も「すいません」と言い合うことほど無益なものはありません。で、冒頭で「社会人は結果がすべて」と書きましたが、これの真意は「この値段取るんだからもっとウマいもの出してくれよ~。“すいません”なんていらないからさ~」という心の叫びにあります。

【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。