アルティザンとアーティストを分け隔てるもの コンテクストが大きな分岐点 (3/3ページ)

 ここで前述した疑問に戻りたい。アーティストとアルティザンを分けるものは何か?である。

 先日、アーティストの友人とこのテーマについて話をしていたら、「アルティザンはコンテクストをアーティストほどには見ない、ということでしょう。アルティザンが、ある技術やテクニックを歴史や社会という観点から俯瞰することがあっても、アーティストほどに美術史や文化史のコンテクストでのイノベーションに熱心にならない」というコメントがかえってきた。

 鍵となる言葉はコンテクストである。コンテクストをどれほどに意識し、どれほどにコンテクストに生きることを覚悟しているか、これが現代のアーティストとアルティザンを分ける大きな分岐点である。そういう意見をもらって、ぼくはハッとした。

 なぜなら、ぼくは本や講演など公の場で文化を語り始めて10年が経つが、ぼくはアーティストの仕事ほどにはアルティザンの仕事に興味をもってこなかった。「カバーする範囲の広さと深さ」の違いから、何となくアルティザンの仕事に距離をもっていた。

 しかし、連載記事を書きながら、その距離がだんだんと短くなってきたことを実感していたのだ。それはアルティザンがアーティストほどにはコンテクストを視野に入れないからこそ見えてくる世界があるはず、と考えている。だからこそ、幸か不幸か、一見ビジネスと相性が良い。

 まだよく見えない世界だが、今年、さらに深化させたいテーマである。(安西洋之)

 筆者が企画に参画しているセミナーが2018年1月13日「ビジネスは魅力的なアート?」と19日「サスティナビリティある愛とは?」の両日、立命館大学東京キャンパスで開催されます。

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【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

安西洋之(あんざい ひろゆき)上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)フェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

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異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。