【ミラノの創作系男子たち】締切が迫っても焦らず 建築家ライ氏が考える「時間」とは? (3/3ページ)

 スカッシュは相手との対決である。駆け引きもある戦略的な側面が強い。これはクライアントとコンセプトをかためていくステップで、効果的な競技である。クライアントと会う前にやると、攻撃的になり過ぎるかもしれない。とれる仕事もとれなくなる。

 スキューバダイビングは、彼の場合、集団活動だ。海底で生徒を引き連れ、それぞれの状況に細心の注意を配っていないといけない。施工がはじまって以降、現場の人たちや設計スタッフがチームでスムーズに動ける環境を作っていくに相応しい技量を意識させてくれる。

 なかなか上手いコンビネーションになっている。

スキューバは指導員の資格をもつ

スキューバは指導員の資格をもつ

 そんなマウリッツィオにとって最大の関心は「時間とは?」である。

 「来週火曜日にある都市計画の提案をしないといけない。でも1週間もきっているのに、まだコンセプトが決まっていない。それで動きまわってインプットに努め、あがくが出てこない。が、必ず来週の月曜日にはアイデアが出ると確信をもっているから焦らない」

 締め切りが自分の意思を決める大きな要因であり、いくら無限に時間があったからといってベストな考えが出てくるとは限らない、と自らの「癖」を熟知している(または「諦めている」)。

 彼が時間を語るに、もう1つ別の例がある。どんな素材であろうと、どんな形状であろうと、何百回と手で撫でていると「必ず、それが愛おしくなる」。

 自分が今それほど魅力的と思わないものでも、撫でまわしていると好きになれる。これについての絶対的ともいえる自信がある。自分だけでなく、他人もそうだ、と。

 そうか!とぼくはここで合点がいった。

 彼は自分で愛してやまないデザインを、クライアントに「如何に撫でまわしてもらうか」をじっと考えているにちがいない。

【ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。

 安西さんがSankeiBizで長年にわたり連載しているコラム【ローカリゼーションマップ】はこちらから。

【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)

安西洋之(あんざい・ひろゆき)モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。