熊本地震からの復興がきっかけ
中岳の火口が見学できるかどうかは運次第だ。噴火警戒レベルが引き上げられると、火口への出入りは全くできない。18年2月に規制が解除されたが、火口に立ち入りできるのは、火口の火山ガス濃度が低い時に限られる。「観光客がたくさん来ているのに規制になると、ゲートから先には入れない。しかし、ゲートの前で『いつ開くんですか』と多くの観光客が待っている。開けてあげたいが…」と阿蘇市経済部観光課の秦(しん)美保子課長は残念がる。
「この状況を何とかできないか」。岡田常務理事は、博物館に防災や監視のシステムの提案をしていたNEC未来都市づくり推進本部の佐藤剛幸エキスパートに相談していたという。
そんな議論をしているうちに16年4月、最大震度6強を記録した熊本地震が博物館を直撃した。麓と博物館を結ぶ阿蘇登山道路や水道などのライフライン、博物館の建物にも大きな被害を受けた。さらにその半年後に起きた中岳の噴火で、博物館が火口に設置していた2台の監視カメラが壊れてしまった。
博物館は国や県などの支援、民間からの寄付を受け、施設の復旧を進める一方、噴火で壊れた監視カメラの復旧にも着手。NECが修復を担当することになった。カメラには夜間の映像も高精細で撮影できる超高感度のフルハイビジョンを採用。火口から噴出する二酸化硫黄(SO2)からカメラを保護するため、オールチタンのフルHD超高感度一体型カメラを開発した。さらに映像を飛ばすためのケーブルも噴火でズタズタになっていたので火口から阿蘇火山博物館に無線伝送装置でつなぐシステムを新たに構築した。
火口へのカメラ設置では立ち入りが規制される中、ガスマスクをつけての作業だったという。18年10月からこのシステムが稼働したが、システムの構築には丸2年を要した。このカメラが設置されたことで、防災面では、昼夜を問わず火口の様子を監視・観測できるほか、火山研究にも役立ち、住民や観光客の安全・安心に貢献する。