「東日本大震災のときに全部落ちてきた大量の本、DVD、CD…。自分で片付けられなくなったら人に迷惑をかけることになる」。終活も視野に、あふれるモノへの危機感を語ったところ、同年代の独身の友人たちもみんな同じ考えだった。4年前に自宅マンションと家財を一斉処分し、60代の男女4人でシェアハウスを構えた。それぞれ持っていた掃除機や洗濯機などもみんなで1個で十分。着るモノも共有できる。
身軽さに満足していたある日、ふと思った。「この世の中、それぞれの家にいろんなモノがあるだろう。それを必要な時に借してもらえたら便利だな」。60歳過ぎてからの起業へとつながった。
自らがアリススタイルのヘビーユーザーであり、会社もシェアオフィスという徹底ぶり。「『モノをいらない』といえちゃうのは、日本が成熟した資本主義社会だからこそ、たどり着く境地。かつては持つ人と持たざる人の間に体験の格差があったが、今は借りることで平等になれる。持たない自由は気持ちいい。人生が気楽になった」と実感しているという。
フリマアプリやシェアリングエコノミーの普及で、他人が使ったモノへの抵抗が薄れていることも追い風だ。貸し出し品の破損・盗難に備えた保険を東京海上日動火災保険と共同開発したが、「想定外にトラブルが少なく、適用は10件以内。モノを借りることに対して日本人は真面目」と語る。
家電、カメラ、空気清浄機などがメーカーから直接出品されるなど、新たな「お試しマーケティング」の場として活用する企業も現れている。7~9月にパナソニックがアリススタイルを通じて発売前のヘアドライヤーを1週間無料で貸し出したところ、500人の当選枠に対して2倍近い応募が集まる反響があったという。
性善説で成り立つ、不特定多数の人々のモノの貸し借り。自動販売機のように、日本の治安の良さを示す商売として、定着するのか!?