研究グループに加わっていない英エクセター大学医学部のデビッド・ストレイン博士も、今回の調査結果を受け、7月8日に声明を発表。これまでの新型コロナの症例を鑑(かんが)みれば、今回の発見は重要ではあるが「驚くべきことではない」と明言したうえで「今回の調査結果では、これらの神経系の合併症がどのくらいの頻度で発生するかはっきり分からないが、新型コロナの患者の中には、運動のような身体的リハビリと脳のリハビリの両方を必要とする人がいることは確認済みで、新型コロナが脳に及ぼす影響についてもっと理解する必要がある」と訴えました。
今回の調査結果の論文の主要執筆者のひとり、マイケル・ザンディ博士はUCLの発表資料で「新型コロナの感染拡大に関連する大規模な脳損傷の流行が今後、見られるかどうかははっきりしない」としながらも、新型コロナの感染拡大による潜在的かつ長期的な神経学的影響を解明するため、追跡調査が必要になるとの考えを示しました。
欧米では、今回の調査結果を受け<医師たちは新型コロナによって引き起こされる深刻かつ潜在的な致命的脳障害の兆候を見逃している可能性がある>(7月8日付英紙ガーディアン電子版)との見方が広がっていますが、仮にこうした神経系の合併症などを発症せず、無事に退院しても大変な苦労が待ち受けているのです。
7月19日付の米CNN(電子版)が詳しく報じていますが、欧州では、新型コロナの元患者たちが、退院後も、頭がもやもやする状態に陥る「ブレイン・フォグ」や疲労、息切れなどに苦しんでおり、クリニックやリハビリセンターで日々、リハビリに励んでいるというのです。
例えば、イタリア人のプロのダイバー、エミリアーノ・ペスカローロさん(42)は3月、新型コロナに感染し、17日間、ジェノバの病院に入院。順調に回復し、4月に退院しました。
ところが彼は、約3カ月たった今も呼吸困難に苦しめられています。「退院して家に戻りましたが、何週間経っても何の進歩も見られませんでした。少し散歩するだけでエベレストを登山しているような感じでした。誰かと会話しているだけでも息切れしました。とても不安でした」と彼はCNNに語りました。
ペスカローロさんは現在、自分と同じように新型コロナの後遺症に苦しむ数十人の元患者と共にジェノバのクリニックでリハビリに励んでおり、回復の兆しが出始めているといいます。
欧州の大部分の国々では、新型コロナの感染拡大のピークは過ぎ、病院が重篤なコロナ患者であふれるといった状況ではないものの、ペスカローロさんのように、退院後、数週間から数カ月を経ても、完全に回復せず、後遺症に苦しむ元患者の存在がクローズアップされています。
実際、英では、ネット上に「long Covid(新型コロナの長期的影響)」というコミュニティーサイトが立ち上がり、元患者たちが自身の体験談などを投稿。さらに、欧州で新型コロナの感染拡大の影響が最も大きかった英と伊では、保健当局が新型コロナの元患者に対するリハビリサービスの提供を始めています。
新型コロナが肺だけでなく、腎臓や肝臓、心臓、皮膚、消化器系をはじめ、脳神経系にも損傷を与える可能性が明らかになってきたため、こうした動きは各国でさらに活発化するとみられています。