遺伝性難病防ぐ「3人の親」 新たな体外受精、英下院合法化 倫理面に問題も
英下院は3日、遺伝系疾患の難病「ミトコンドリア病」が子供に伝わるのを防ぐため、病気を持つ女性の卵子から核だけを取り出し、ほかの女性の健康な卵子の核と交換する新たな体外受精(卵子核移植)の実施を認める法案を賛成多数で承認した。「3人の親」を持つことで、ヒトの細胞内の小器官「ミトコンドリア」の異常で起きる脳損傷や筋ジストロフィー、心不全、失明などの遺伝を防げるという。上院を通過して法案が成立すれば、卵子核移植を認める世界初の事例となり、有効な治療法がない遺伝性の難病に苦しむ人々の喜びは大きい。一方で、親が望む性質の子を人為的に作る「デザインされた赤ちゃん」(デザイナーベイビー)の第一歩になりかねないとの批判も出ている。
首相「支持する」
英BBC放送(電子版)やAP通信などによると、法案は賛成票382、反対票128で可決された。賛成票を投じた英国のデービッド・キャメロン首相(48)はこの移植法についてロンドンのラジオ局に「健康で幸せな赤ちゃんが欲しい夫婦にその機会を与えるもので、私は支持する。腎臓や肺の移植というより(細胞を)根本から作り替えるようなものだ」と指摘。「この移植法における研究や研究成果は神や自然に逆らうようなものではない」と訴え、倫理的にも何ら問題がないことを強調した。
細胞内の小器官ミトコンドリアは、細胞にエネルギーを供給するエンジンの役割を果たす。独自の遺伝子(DNA)を有しているが、それは細胞の全DNAのわずか0.1%だ。このため、ミトコンドリアが持つDNAは外見や性格といったヒトの特徴には影響を与えないとされるが、有害変異するとミトコンドリア自体が異常をきたし、脳神経や筋肉などさまざまな臓器の働きを損ない、重篤疾患を引き起こす。これがミトコンドリア病だ。
子供7人亡くし…
ミトコンドリアのDNAは母親の卵子を介して子に伝わる母系遺伝で、父親からは遺伝しない。このため、ミトコンドリア病を予防するためには遺伝子レベルの治療が不可欠。英国にはこの病気に苦しむ出産適齢期の女性が約2500人いる。
こうした患者たちにとって、卵子核移植の合法化を認める今回の決定は朗報だ。7人の子供をすべてこの病気で亡くしたシャロン・ベルナルディさんはBBCに「感極まって何も言えない」と答え 祖母をこの病気で亡くしたレイチェル・キーンさんもBBCに「この最も残酷で破壊的な病気を次世代、そしてさらに次の世代にまで予防できる」と期待を寄せた。
毎年150人誕生
一方で、イングランドとウェールズの司教協議会をはじめ、英国国教会やカトリック教会は、命の発生の初期とされる胚(はい)の前段階にあたる卵子を傷付けるうえ、子は女性2人と男性1人の計3人のDNAを受け継ぐため、卵子核移植には安全面や倫理面で問題があると指摘する。
上院を通過すれば来年にはこの新たな体外受精の運用が始まり、英国では“3人の親”を持つ赤ちゃんが毎年150人生まれる可能性があるという。(SANKEI EXPRESS)
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