天野さんに拍手

勿忘草

 新年を迎え、昨年のニュースを改めて思い起こした。ゴーストライター騒動から始まって、STAP細胞に号泣議員など、たくさんの“流行語大賞には選出できない流行語”が誕生した。一方で、明るいニュースもあった。ノーベル賞受賞では、発明報酬をめぐる裁判などでも話題を呼んでいた中村修二氏が注目を浴びたが、私はあえて、名古屋大学の天野浩さんに拍手を送りたい。天野さんは実験を繰り返し、無理とされた窒化ガリウムの結晶を作ることに成功した。

 何を隠そう、私も大学時代、某大学理学部の研究室で結晶作りに挑戦していた一人である。そもそも、結晶作りというのは多くの人が想像する以上に運、そしてド根性が必要な作業だ。誰も成功したことのないものを作るといえば聞こえはいいが、それだけ難しい。「本当にこんな配合で結晶ができるんだろうか…」。そんな漠然とした不安を常に抱えながら、少しずつ条件を変えて何度も挑戦しなくてはいけない。結局、私は結晶作りに限界を感じ、新聞記者という道を選んでしまった。そんな不安につぶされることなく、実験を続けた天野さんの根性はすごい。

 それだけではない。謙虚な性格も結晶作りには欠かせない要素だ。一括りに“理系”といっても、時代によって花形の研究室もあれば地味な研究室もたくさんある。私が所属していた研究室も、当時最先端だった遺伝子の研究室の陰に隠れていた。天野さんの研究室がどのような位置づけだったかは分からないが、花形ではなかったのではないか。注目を集めることはなくても、黙々と実験に打ち込むのも口で言うほど簡単なことではない。

 天野さんに関する報道を見ていると、謙虚でいつも一歩引いている感じの人柄を感じる。受賞に対しても「信じられない」と言っていた。もし、天野さんが華やかな研究を好む性格だったら、窒化ガリウムの結晶はこの世に誕生していなかっただろう。

 多くの花形研究をデータで下支えしているのが、天野さんのような研究者の基礎研究だ。私の学生時代にも少しだけスポットが当たったような(勘違い?)、そんな錯覚に陥ったうれしいニュースだった。(今泉有美子/SANKEI EXPRESS