習近平指導部は軍の利権を再配分できるか? 「親北朝鮮軍区」のクーデターが先か? 安全保障の「2016年問題」は中国軍改編
野口裕之の軍事情勢北朝鮮が4回目の「核実験」を行った6日以降、実験もさることながら、鴨緑江の向こう側の動きが気になる。鴨緑江は中国との国境に流れる川で、「向こう側」は7個の中国軍最大部隊単位、というか軍閥に近い《軍区》で最精強を誇る《瀋陽軍区》の管轄域。注視すべきは北京より平壌と親しい瀋陽軍区によるクーデターである。瀋陽軍区高官の一族らは、北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有する。瀋陽軍区が密輸支援する武器+食糧+生活必需品や脱北者摘発の見返りだ。北朝鮮軍の軍事パレードで登場するミサイルや戦車の一部も瀋陽軍区が貸している、と観る関係者もいる。もっと恐ろしい「持ちつ持たれつ」関係は核・ミサイル製造だ。中国軍の核管理は《成都軍区》が担い瀋陽軍区ではない。瀋陽軍区は核武装して、北京に対し権限強化を謀りたいが、北京が警戒し許さぬ。そこで製造技術を北に流し「自前」の核戦力を造ろうとしているとの観測が浮上してくる。
しかも、その核戦力は日米ばかりか北京にも照準を合わせている可能性がある。理由はこうだ。(1)北核実験を受け、北京が対北経済制裁に踏み切れば、瀋陽軍区はクーデターを考える(2)他軍区の通常戦力では鎮圧できず、北京は成都軍区の核戦力で威嚇し恭順させる他ない(3)瀋陽軍区としては核戦力さえ握れば成都軍区の核戦力を封じ、瀋陽軍区の権限強化要求+クーデターの、2つの選択肢を保てる。習近平指導部が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れるが、瀋陽軍区を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できないだけでなく、瀋陽軍区に寝首をかかれるからでもある。
「親北軍区」が反旗の懸念
瀋陽軍区が北朝鮮と、北京を半ば無視して誼を通じる背景には出自が在る。中国は朝鮮戦争(1950~53年休戦)勃発を受けて“義勇軍”を送ったが、実体は第四野戦軍。当時、中国軍最強の第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身で、朝鮮族らが中心となって編成された「外人部隊」だった。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では最大180万人もの朝鮮族が居住する。いわば、瀋陽軍区と北朝鮮軍は「血の盟友」として現在に至る。金正日・総書記(1941~2011年)も2009年以降、11回も瀋陽軍区を訪れた。
実際、朝鮮半島有事になれば、北支援に向け瀋陽軍区の戦力が鴨緑江を渡河し半島になだれ込む。従って、各種演習も半島全域を想定する。特に第39集団軍は、中国軍最精強の瀋陽軍区でも最強とうたわれ、機械化に伴う展開速度は侮れない。38度線付近の非武装地帯で15年、北朝鮮軍が仕掛けた地雷で韓国陸軍の下士官2人が大けがを負い、南北間に緊張が走るや、瀋陽軍区の戦車を主力とする部隊が中朝国境に急派されている。
《7大軍区》は4~5個の《戦区》に統廃合されるが、注目は北京の頭ごなしに「対北独自外交」を繰り広げる瀋陽軍区を《北京軍区》に吸収合併できるか否か。既に、瀋陽軍区勤務が豊富で、軍区に影響を有す軍区内外の反指導部系軍高官粛清を断行。全軍統率機関=中央軍事委員会副主席、徐才厚・上将(1943~2015年)の汚職など規律違反での逮捕は、いかにも象徴的だ。半面、北京軍区司令官に習氏と近い上将を抜擢するなど着々と布石を打っている。
利権の再分配を狙う
布石にもかかわらず、徐上将失脚で14年、徐の腹心の第39集団軍幹部はクーデターを起こした。韓国の朴槿恵・大統領(63)は13日、北核実験を受け、中国に「北朝鮮が痛みを感じる実効的制裁を」と呼び掛けたが、中国の対北経済制裁後、依然として北朝鮮が延命できるとすれば瀋陽軍区の隠密支援の結果かもしれず、クーデターの芽を残す証左だろう。
習指導部はまた、中国軍230万人の30万人削減を目指す。しかし、30万人もの失業者をどこに持っていくのか。チベットや新疆ウイグルでの虐殺の手先=準軍隊《人民武装警察》も受け容れ先候補だが難しい。1982年の創隊時に40万人だったが、現員は66万人。差の26万人の多くは中国軍よりの移籍組な上、中国軍同様、削減対象と成りそうだ。復員軍人手当を支給すべき地方政府の財政は干上がっており、支給を止めたケースが頻発する。経済失速で就職口も少ない。結局、下級将校や下士官・兵ほど割を食う。
もっとも、高位の軍人も戦々恐々としている。軍中央で、作戦立案や指揮を担任する《総参謀部》、思想教育や人事を担任する《総政治部》、兵站を担任する《総後勤部》、兵器の研究・開発や調達を担任する《総装備部》の、4総部が解体→15部局へ切り刻まれた。各総部の間で異動はほとんどなく、縦割り体制を長年続けてきた。情報共有▽指揮権など《軍令》▽人事権など《軍政》といった各面での合理化目的は否定せぬが、習指導部が全軍掌握=利権再配分を狙った側面に注目したい。
分裂なら世界に甚大被害
習指導部は、航空機や資源・エネルギー産業など、特定分野で巨利を占有する国有企業の削減を試みている。4総部も、それぞれに息のかかった国有企業を抱える。例えば、総装備部系は《保利集団公司》とつながる。保利集団は軍事関連製品貿易を圧倒的に独占する他、不動産も広く手掛け、石炭採掘や鉄鉱石・石油探査も仕切る。総政治部系の《凱利集団公司》は武器輸出商社だし、総後勤部系の《三九企業集団》は医薬品大手で、日本の中堅医薬品メーカーを子会社化している。
一方、30万人削減は陸軍中心とみられ、60万人削減まで広がる確率が高い。軍区統廃合+30万人削減で、陸軍を筆頭にポストは激減する。おいしい利権を食べて肥え太った将軍→高級将校→中堅将校らが創り上げた利権ピラミッドに、軍歴ゼロの習氏が手を突っ込む対決図の行方は目が離せない。ソ連の場合、国家指導者が軍に介入すると失脚し、「党の軍隊」の国軍化も失敗に終わった。
《2016年問題》というと、閉鎖・取り壊しに因り劇場・ホールが不足し、音楽業界を直撃している社会状況などを指すが、安全保障の世界では中国軍改編問題が重大対象の一つ。中国分裂は慶賀に堪えぬが、国際社会の安全保障・経済への甚大な被害は避けられない。周りを巻き込まず、寂しく崩壊する道を探ってほしい。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)
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